研究課題/領域番号 |
24560116
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
辻上 哲也 龍谷大学, 理工学部, 教授 (80243179)
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研究分担者 |
田原 大輔 龍谷大学, 理工学部, 講師 (20447907)
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キーワード | 模擬骨 / ねじ押し抜き試験 / 骨切り・骨ドリリング特性 / 整形外科手術シミュレータ / 均質化法 / X線マイクロCT / モルフォロジー解析 |
研究概要 |
2年次の研究では,模擬骨材料のドリリング特性評価のための定量的評価手法を確立するため,初年次に引き続き,密度だけでなく構成材料の配合割合の異なる模擬骨材料とブタ骨に対し,ねじ押し抜き試験を実施した.また,材料の微小構造と機械的特性の関連を明らかにするため,不均質材料の力学的特性評価が可能な均質化法解析の適用を考え,多孔質な模擬骨材料の解析モデルの作成方法や妥当性および模擬骨材料の内部構造に起因する機械的特性の変化について考察した.その結果,以下のような成果を得た. 1.ねじ押し抜き試験において,模擬骨材料の密度上昇に伴って最大荷重値が大きくなることが明らかとなり,密度制御により,骨切り・骨ドリリング特性の制御が可能であることが示唆された.また,新規模擬骨材料におけるPVA含有量は,密度制御では不可能なわずかな材料特性を調整できる因子であることがわかり,オーダーメイド設計を可能にする新たな因子であることが示唆された. 2.ねじ押し抜き試験から得られた荷重-変位特性の変化率の比較は,骨切り・骨ドリリング特性評価の有用な指標になることが示され,新規模擬骨材料は,既存模擬骨材料と比較して,より実骨に近似した特性であることがわかった. 3.X線マイクロCTを用いて既存模擬骨材料のイメージベースモデルを構築し,均質化解析を行った.模擬骨材料のイメージベースモデルと空孔の配置をランダムに定義して構築した簡易モデルでの解析結果を比較すると,機械的特性に20 %ほどの差が見られた.これは,各モデルにおけるポリウレタン部の連結度が異なるためと考えられ,多孔質な模擬骨材料の機械的特性が,材料の微小内部構造パターンと密接に関連しているが示唆された. 4.モルフォロジー解析による模擬骨の内部構造の定量的評価は,オーダーメイド設計・製造のための重要な情報となり得ることを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.ねじ押し抜き試験による追実験を実施することにより,密度の異なる新規模擬骨材料および既存模擬骨材料は,各模擬骨材料の密度の上昇に伴い,最大荷重値が大きくなることを示し,密度の制御により骨切り・骨ドリリング特性の制御が可能であることを確認した.また,取得した荷重-変位特性の変化率の比較は,骨切り・骨ドリリング特性評価の有用な指標であることを示し,新規模擬骨材料がより実骨に近似した特性を持つことを示した. 2.模擬骨材料の密度以外の力学的特性に影響を与える要因としてPVA含有量についての検討を行い,発泡剤の含有量の変化による密度制御では不可能であるわずかな材料特性の制御が可能であることがわかり,新規模擬骨材料のオーダーメイド設計を可能にする新たな因子であることを示した. 3.模擬骨のミクロ構造分析とそれに基づいた計算モデルを用いて,マクロな機械的特性と骨切り・骨ドリリング特性変化に与える影響について定量的評価を行った.日本人骨の個体別イメージベースモデリング手法を確立するため,模擬骨のX線マイクロCTスキャンによるイメージベース計算モデルに対するミクロ構造分析・観察と均質化解析を行い,材料の構成成分比と発泡率の変化が,マクロな機械的特性に与える影響を定量的に評価できた.
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今後の研究の推進方策 |
1.これまでの研究では,模擬骨材料や実骨のドリリング特性を定量的に評価する手法として,ねじ押し抜き試験を提案するとともに,実験から得られる荷重-変位特性から特徴的な値を抽出することで,骨切り・骨ドリリング特性評価の有用な指標となり得ることを示した.しかしながら,ねじ押し抜き試験はドリリングによるねじ切り特性は反映されていないと考えられ,ドリリング特性のより詳細なデータを得るため,ドリルや固定ねじによるねじりトルク試験を実施する. 2.マクロな機械的特性が骨切り・骨ドリリング特性に与える影響を定量評価するため,X線マイクロCTを用いた模擬骨のイメージベース計算モデルによる均質化解析とミクロ構造分析を実施する必要がある.X線マイクロCTを用いたイメージベース計算モデルの作成は,それぞれの材料に対する閾値設定が必要で,その値の設定如何によっては解析結果に大きく影響する.今後は,新規模擬骨材料のモデル作成について検討し,既存模擬骨の結果と比較することで,模擬骨のイメージベース計算モデル作成法を確立する. 3.CTスキャンによる日本人骨の個体別イメージベースモデルを計算機上に作成するためのデータ取得とその形状データに基づいた新規模擬骨材料を用いた骨モデルの製造に至るまでの具体的システムの提案を行う.また,製造された模擬骨に対し形状誤差を分析し,形状再現性の精度評価に基づいたオーダーメイド設計・製造手法の有用性について評価・考察する.
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は,計算シミュレーションによる模擬骨材料のような多孔質材料の力学的特性評価のためのモデル化と解析計算への展開のため,解析ソフトウェアの並列オプションを購入した.そのための並列計算機環境が不可欠であるが,本年度においてはイメージベースの解析モデルの作成が主であり,既存の設備を利用することで十分研究を遂行可能であった。 まず,模擬骨材料および実骨のねじりトルク試験を実施するにあたり,新たな試験片の作製・調達と試験治具やセンサーが必要になる.実験条件の変化に対応した試験片の数が必用であるため,試験片調達と試験治具作成やセンサー購入のために研究費を使用する.また,計算シミュレーションによる模擬骨材料のような多孔質材料の力学的特性評価のための大規模なモデル化と解析計算への展開のため,イメージベース計算モデルの並列解析に対応する計算機環境が不可欠であり,今年度の研究費でこれらの整備を行う予定である.さらに,成果報告のための国内外への会議への参加のための出張費や,論文作成費としての使用を予定している.
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