研究課題/領域番号 |
24560146
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京都立産業技術高等専門学校 |
研究代表者 |
吉田 政弘 東京都立産業技術高等専門学校, その他部局等, 教授 (80220680)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 放電加工 / 単発放電痕 / 極間距離 / 断面形状積算法 / 残留応力 |
研究概要 |
極間距離を1μm以下の分解能で設定できる工具電極送り装置の製作を行った.工具電極と工作物の間の極間距離をミクロンオーダで設定するためには,実験装置の精度だけではなく,工具電極と工作物がセットされた状態で,工作物と工具電極の加工面の表面粗さと平面度が要求される.そこで,工具電極と工作物の平行度を保証するために,工具電極を送り装置にセットして放電加工面の研削が可能な機上研削装置の設計・製作を行った.その結果,実際に実験を行う状況で,工具電極と工作物の平行度は1μmを保証することができた.また,単発放電痕を作成するための電気回路の製作も行った.これは,放電加工機の加工電源を用いた場合,放電電流を細かく設定することが不可能なためと放電電流のばらつきを最小限に抑えるためである. 製作した実験装置を用いて,極間距離50,100,150,200μmで単発放電痕を生じさせた.単発放電痕は各極間距離で5個づつ作成した.単発放電痕の作成条件として,開放電圧280V,放電電流20A,放電持続時間100μsである.実験の結果,極間距離によって単発放電痕形状に違いが生じることが明らかとなった.現在,断面形状積算法による単発放電痕の解析を進めている.この結果がまとまれば,最も除去効率の良い単発放電痕形状と極間距離が明らかになる.この解析には,物品費用で購入した高精度ラッピングマシンを用いている.なお,同一の極間距離で生じさせた単発放電痕形状には,ばらつきが殆どなく,今回製作した実験装置の有効性も確認できた. 予備実験を行うに当たって,極間距離を変えた場合,放電が生じた直後の放電波形に変化があることが考えられた.そこで,極めて高速なデジタルオシロスコープを購入した.現在,放電発生時の放電波形の解析も始めたところである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は,極間距離を設定して単発放電痕を生じさせ,極間距離が単発放電痕形状に影響を及ぼすことを実証することを目標としていた.また,同じ極間距離で作成した場合,単発放電痕形状にばらつきが殆ど生じないことも重要なポイントである.平成24年度において,これらの目標は達成された.現在,各極間距離で作成した単発放電痕を断面形状積算法を用いて解析中である.このように,研究はおおむね順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は,極間距離の違いが単発放電痕形状に及ぼす影響を断面形状積算法による単発放電痕の解析のから明らかにすることが最初の目標である.これにより,除去効率が高い単発放電痕形状を定めることが可能となり,また,そのような単発放電痕が生じる極間距離を決めることも可能になると考えている. 次に,白層(溶融再凝固層)とバージン面に同じ極間距離で単発放電痕を生じさせ,単発放電痕形状に違いが出るかを調べる.これは,実際の放電加工は放電加工によって形成された白層に再び放電が生じて加工が進む.したがって,白層表面に単発放電痕を作成し,この放電痕性状を調べる必要がある.一方,加工面の残留応力の違いが単発放電痕性状に影響を及ぼしている可能性も考えられ,実際の放電加工と同一条件にするためには,白層そのものに単発放電痕を作成しなければならない.そこで,放電アークによって溶融した部分が殆ど除去されない平坦な形状の単発放電痕を作成して,その上に通常の単発放電痕を作成することを考えた.これまでに,平坦な単発放電痕を作成し,この白層に単発放電痕を作ることは可能になっている.このようにして作成した白層上の単発放電痕とバージン面上の単発放電痕形状の比較を行う. 白層には放電アーク柱によって加工液が熱分解した際に生じるカーボンが浸炭する.鋼系材料は含有するカーボン量が増加すると融点が下がり,シリコンの含有量によって溶融した時の粘性が変化することが知られている.そこで,まず,カーボンの含有量の異なる鋼工作物に単発放電を作成してカーボンの含有量が単発放電痕性状に及ぼす影響を調べる.次にシリコンの含有量が異なる鋼工作物について同様に単発放電痕性状の調査を行う.この調査も極間距離,放電電流,パルス幅を変化させて行う. 平成26年度では,加工面の残留応力の違いが単発放電痕性状に及ぼす影響を調べる.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は,極間距離と単発放電痕形状の関係,除去効率の良い単発放電痕形状を探すための実験を数多く実施する,そして,工作物のカーボン含有量の違い,即ち,組成の違いが単発放電痕形状に及ぼす影響を調べるための実験も数多く行う.そのため,研究費の殆どは工作物,工具電極,断面形状積算法を行う際に必要となるラップ液などの消耗品の購入に使用する. 研究成果を速やかに公表するため学会発表を行うが,その旅費や学会参加費も予算を計上した. 鋼工作物の組成などに関する専門知識の提供の謝金や電子顕微鏡の使用料,そして,非常な労力と時間がかかる断面形状積算法による単発放電痕の解析に必要な実験補助員の人件費として予算を計上している. 研究の進展にもよるが,学会への投稿論文が可能となれば,その投稿料も計上した.
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