研究課題/領域番号 |
24560149
|
研究機関 | 奈良工業高等専門学校 |
研究代表者 |
和田 任弘 奈良工業高等専門学校, 機械工学科, 教授 (10141912)
|
キーワード | 切削 / PVDコーティング / タングステン系被膜 / 被膜特性 |
研究概要 |
本研究の目的は、超硬合金母材の主成分であるWCに着目し、Cr系被膜にWを加えることで密着力を高めることが可能であると考え、Cr系ターゲットにタングステン(W)を加えた合金をターゲットに使用した新しいタイプの(Cr、W、Al)系被膜を開発し、この被膜が高密着性・高アブレシブ性に優れた被膜であることを明らかにすることである。 平成25年度は、これらの被膜の高アブレシブ性を調べるために、(Cr、W、Al)系被膜コーテッド超硬合金工具で、焼入れ鋼SKD11(60HRC)、および焼入れ焼結鋼(密度7.1g/cm3、405HV)の旋削を行い、市販の(Ti、Al)N、および(Al、Cr)N被膜コーテッド超硬合金工具と比較した結果、焼入れ鋼の切削では、(Ti、Al)N被膜コーテッド超硬合金の摩耗進行が最も遅くなったが、(Cr、W、Al)(C、N)被膜コーテッド超硬合金の摩耗進行は、(Ti、Al)N被膜コーテッド超硬合金に比べやや速かったが、大差はなかった。また、焼入れ焼結鋼の切削では、(Cr、W、Al)(C、N)被膜コーテッド超硬合金の摩耗進行は、市販の(Ti、Al)N、および(Al、Cr)N被膜コーテッド超硬合金に比べ遅くなった。 以上のことから、2種類の焼入れ鋼の旋削では、(Cr、W、Al)系被膜は優れた高アブレシブ性を有することを明らかにした。 さらに、高硬度材の切削加工においては、被膜硬度の上昇が必要である。そこで、(Cr、W、Al)系被膜の硬度を上昇させるための方策として、シリコン(Si)を加えた(Cr、W、Al、Si)系被膜を試作し、この被膜の密着強度を調べた。その結果、いずれの(Cr、W、Al、Si)系被膜も、密着強度は100N以上で、高密着性に優れた被膜であった。しかし、被膜硬度については、3000HV0.025Nで、Si添加による顕著な硬度上昇は期待できなかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的は、Cr系ターゲットにタングステン(W)を加えた合金をターゲットに使用した新しいタイプの(Cr、W、Al)系被膜を開発し、この被膜が高密着性・高アブレシブ性に優れた被膜であることを明らかにすることである。 平成24年度では、Cr系ターゲットにタングステン(W)を加えたCr-W-Al合金ターゲットを使用し、窒化系、炭化系、窒炭化系の被膜を形成させた。超硬合金K10種を母材とする場合、市販のTiN被膜では密着強度68N、(Ti、Al)N被膜では密着強度73N、また市販の(Al、Cr)N被膜では密着強度77Nである。これに対し、Cr-W-Al合金ターゲットを使用した場合、窒化系、炭化系、窒炭化系のいずれの被膜も、密着強度が100N以上であり、高密着性に優れた被膜であることを明らかにした。 次に、平成25年度では、これらの被膜が高アブレシブ性に優れた被膜であることを明らかにするために、(Cr、W、Al)系被膜コーテッド超硬合金工具で、2種類の高硬度材の旋削を行い、市販の(Ti、Al)N、および(Al、Cr)N被膜コーテッド超硬合金工具の場合と比較した。その結果、(Cr、W、Al)系被膜コーテッド超硬合金の摩耗進行は、市販の2種類のコーテッド超硬合金に比べ、同程度かあるいは遅くなっていた。したがって、(Cr、W、Al)系被膜が高密着性・高アブレシブ性に優れた被膜であることを示しており、現在までの研究目的は、概ね達成されているといえる。なお、平成25年度は、旋削で用いられるバイトによる切削実験を行ったが、今後、バイト以外の切削工具にも適用可能かどうか明らかにしたい。
|
今後の研究の推進方策 |
過去2年間で、(Cr、W、Al)系被膜を試作し、この被膜特性を調べた結果、高密着性の被膜であることを明らかにした。旋削実験で、これらの被膜が高アブレシブ性に優れた被膜であることも明らかにした。さらに、被膜硬度の上昇は期待できなかったが、(Cr、W、Al、Si)系被膜は高密着性に優れたことを明らかにした。 平成26年度は、①(Cr、W、Al)系被膜については、適用範囲を広げるために、バイト以外の切削工具にも適用し、従来から市販されている(Ti、Al)N被膜コ-テッド工具との比較・検討を行う。 ②旋削実験で使用したスローアウェイチップについては、工具摩耗面のSEM観察、EDS分析を行い、工具の摩耗機構を解明する。③試作した(Cr、W、Al、Si)系被膜の耐アブレシブ性を調べるために、切削実験を行い、工具摩耗を調べる。④今後の研究を発展させるために、研究結果の総括を行う。
|