研究課題/領域番号 |
24560154
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
小野 京右 東京工業大学, 理工学研究科, 名誉教授 (40152524)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ナノトライボロジー |
研究概要 |
1.東芝によるディスク表面粗さのAFM測定結果は,これまでの日立による測定結果とかなり異なり,垂直磁気グレインに対応する形状が現れないことが分かった.日立製磁気ディスクの測定結果も同様なので,これはAFM測定know howの違いによると思われる.そこで当面表面粗さの測定結果を考慮した吸着力の詳しい解析は保留することとし,原因解明のため,粗さのAFM測定を関西大学,谷教授(元日立)にも依頼した. 2.ヘッド・ディスク間すきまを1nm以下へ低減するため,安定な接触条件の解明が希求されている.そこで2000年代初頭に筆者らが提案した接触記録ヘッドの理想的な設計法に,vdW吸着力とTFC球面ヘッドという最近の条件を考慮して設計理論を発展展開し,ディスク面うねりに対する安定接触追従条件を明らかにした.本理論は近年実験的に明らかにされた多くの接触振動特性を体系的に説明できる.本成果はJSME/IIP2013(2013.3)講演会, MIPE2012 (2012.6,Santa Clara, CA, USA)で発表し,関係者の注目を集めた.また邦論文はJSME論文2013.1月号に,英論文はMicrosystem Technologies Online 2013.3に掲載された. 3.接触記録における問題はヘッド摩耗であり,厚さ0.3 nm前後の流動潤滑剤と厚さ1nm前後の固定潤滑剤のヘッド摩耗における役割の解明が重要である.そこでヘッド接触により排除された流動層の修復特性を連続体理論によりシミュレーションした結果,等価粘度を同定すれば,連続体理論に基づき修復特性を定量的に評価できることを明らかにした.これに基づき,50%修復できる,排除痕幅,潤滑剤粘度,潤滑膜厚さの関係を評価する設計チャートを提案した.また粗さ分布特性から50%修復できるヘッド・ディスク平均面間距離を求める方法も示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1.計画していたサブナノメートルレベルの粗さ特性の定量的評価は重要だが,AFM測定結果が会社によって異なり,米国の標準評価値とも異なるので,何が真であるか,さらなる検討が必要であることが分かった.そこで大学で最も高い測定技術をもつ関西大学の谷教授に測定を依頼したが,まだ結果が出ていない.一方,以下の新しい研究を行い,インパクトの高い研究成果を得た. 2.粗さの研究を保留せざるを得なかったので,代わりに,多くの研究者の最大の課題である接触記録ヘッドの設計条件を解明し,これにより従来の詳しいシミュレーション解析では不明であった,多くの実験データを体系的に理解できることを示した.これは価値の高い重要な成果である. 3.2項と並行して,単分子層以下の流動潤滑膜の流動特性が連続体力学で評価できることを初めて明らかにした成果も大きい.この結果として,流動潤滑膜層によるメニスカス吸着特性を弾性変形を考慮して解析する課題の重要性をも再認識し,これを平成25年度の重点課題とすることにした.また固定潤滑膜の接触特性に及ぼす影響の重要性も認識し,これも平成25年度の解析課題とすることとした.これらが明らかになれば,当初の目的である,各種球面と平面による吸着力特性を実験と比較できる理論が構築できることになる.
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今後の研究の推進方策 |
1.粗さ特性データを具体的に考慮した接触特性の解明はペンディングとし,流動潤滑薄膜の流動性によるメニスカス吸着力と,固定潤滑膜の接触特性を解明することを平成25年度の最大の研究課題とする. 2.流動潤滑膜厚さは0.2-0.3 nm程度となっており,その分離圧は数十MPa以上となる.よって球面と平面の接触部にはナノメニスカスが形成され,接触特性は弾性変形を考慮する必要があると予想される.そこでナノメニスカスによる弾性変形を考慮した接触特性を解く手法を開発する.また磁気ディスクの場合には,固定潤滑膜層のヤング率が小さいので,このエラストマー層をも考慮した解析が必要である. 3.そこで固定潤滑膜層を考慮した接触特性を解析する.当面なめらかな球面と平面の接触モデルで解析するが,次に粗さ突起をも考慮した球面と平面の接触特性も解析する.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度予算は164万円である.平成25年度は,特にこれまでの研究成果を国際会議で発表し,その機会に関係する分野の最先端研究機関を訪問し,研究状況の調査を行う. 1.会議参加費,旅費 100万円,1-1. 国際会議参加発表と関連研究機関の見学調査費 85万円.a.ハードディスク関連の研究成果が発表される,ISPS2013(2013.6に米国Santa Clara大学で開催)に参加発表予定である.この機会に,UC. BerkeleyのBogy教授の研究室,UC. San Diego大のTalke教授の研究室,WD社サンホセ研究所を訪問し,研究室見学,討論により研究状況の調査を行う(旅費,参加費35万円).b. 4年に1回の開かれるトライボロジー分野で最大のWorld Tribology Conferenceがイタリアのトリノで9月に開催されるので,潤滑薄膜によるナノメニスカスの接触特性を弾性変形を考慮して解析する近似解法を発表する.この機会にイタリアとフランスのトライボロジー研究機関を訪問し,ナノトライボロジーの研究状況を調査する.(旅費,参加費約50万円).1-2.国内学会参加費旅費 2件 15万円 2.物品費 合計 64万円.3-1. 計算ソフトMATLAB保守契約更新費 6万円.3-2. 英文添削費 16 万円(full paper:2件×5万円 = 10万円,国際会議論文:2編×3万円 = 6 万円).3-3. 論文掲載費 32万円(邦論文:2編×6 万円 = 12 万円,英論文:2編×10万円 = 20 万円(カラー印刷代含む)).3-4. 消耗品 10万円(図書費,文献複写費,プリンタ用紙,プリンタインク等).
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