研究課題/領域番号 |
24560154
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
小野 京右 東京工業大学, 理工学研究科, 名誉教授 (40152524)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ナノトライボロジー / 磁気記録 / 表面・界面現象 / 計算物理 / コンタクトメカニクス / 境界潤滑 |
研究実績の概要 |
1.ヘッド・ディスク近接記録時のスライダの振動特性を明らかにするため,H24年度に発表した論文では簡便なJKR吸着理論を用いて定性的な説明をしていた.そこで,粗さ突起吸着接触理論による5つの接触モデルに基づいてより厳密化したヘッド・ディスク作用力を導出した.次にこの作用力と1自由度スライダモデルを用いて,粗さ突起接触領域におけるディスクの微小うねりによる浮上すきまの振動特性を解析した.その結果,報告されている実験結果と同様に,吸着による不安定すきま域で,100 kHz以下の振動が生じることなどを明らかにした(2015年6月のMIPE国際会議で発表予定). 2.単分子膜以下の希薄潤滑液膜のヘッド接触による摺動痕の修復特性を分子の存在確率を考慮して連続体力学として表現する拡散方程式を新たに提案した.これにより希薄液膜に対する実験から得られる粘度を用いて摺動痕の修復特性を定量的に評価できること,単分子膜以下の領域における拡散係数の実験結果を従来理論より合理的に評価できることなどを明らかにした.本理論は単分子層以下の希薄液膜に対する流動方程式の概念を新たに提起したもので,本研究の最大の成果である. 3.固定成分と流動性分から成る単分子潤滑液膜にヘッド面や試験ガラス面が接触したときの凝着特性は,実験結果を液滴接触角計測による表面エネルギーを用いてJKR理論やDMT理論に適合させて論じられているに過ぎない.そこで,1nm以下の希薄液膜と半径が2mm, 2μm, 20nmの各球面が接触したとき生じるメニスカスを,メニスカス圧力は希薄液膜の分離圧に等しいという条件で数値解析する方法を新たに開発した.これにより液膜が薄くなると,凝着接触特性はDMT理論からJKR理論に近くなり,液膜厚さが0.3nm程度以下ではメニスカス長がゼロとなり固体接触へ遷移することなどを初めて理論的に明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1.交付申請書の第1の研究目的であり,平成26年度の研究実施計画における第1項の課題であるヘッド・ディスクの粗さ接触領域の凝着・接触特性の解明について,各種の突起凝着接触モデルにより解析し,スライダの1自由度モデルの粗さ接触領域の振動をシミュレーションした.その結果,実験的に報告されている特性をかなり予測できることを明らかにし,当初の目的の80%以上を達成した.今後は実験報告と比較しつつ,どの凝着接触モデルがより妥当であるかを評価し,厳密化の必要性を検討する. 2.AFMプローブによる吸着特性の測定は連携研究者との関係で実現できなかったが,半径2mm~0.2mmのガラス球による吸着特性の実験報告があるので,単分子層以下の液膜のメニスカス接触モデルに基づき,球と平面のメニスカス弾性接触特性を数値解析する理論を開発した.これにより連携研究者らや他の研究者から報告されている接触特性を全体的に評価できることを明らかにした.よって26年度の研究計画の第2,3項の課題はほぼ80%を達成したということができる. 3.交付申請書に述べたヘッドの摩耗特性の解明は平成25年度に発表した潤滑剤の修復特性に関する論文で定性的に評価したが,実験との比較は十分な実験データがないのでこれ以上の評価は不可能である. 4.希薄液膜の拡散方程式の提案,メニスカス弾性接触特性の数値解析理論の開発は当初の計画では予想できなかった独創的な成果であり,これらのナノトライボロジー分野への理論的寄与は極めて大きいと信じる.
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今後の研究の推進方策 |
1.ハードディスク装置はヘッド・ディスク浮上すきまを1nm以下にすることが要求されており,その領域で発生するスライダの振動によるすきま変動が問題となっている.当面1自由度スライダモデルによるディスクの微小うねりに対する振動特性を実験と突き合わせ,粗さ突起凝着接触特性とスライダ振動との関係を明確にする必要がある.さらに必要なら,スライダの2自由度モデルによるシミュレーションも行い,粗さ突起凝着接触特性膜の挙動を解明する.また本研究で提案した希薄液膜の流動方程式を拡張的に用いて,スライダ振動との関係を解明し,安定近接記録条件を明らかにする. 2.希薄潤滑液膜の潤滑・修復特性については,本研究で提案した希薄液膜の拡散方程式を拡張し,熱補助記録時における液膜の蒸発や温度上昇による表面張力や分離圧の変化をも考慮した希薄液膜の流動特性方程式を開発する.これにより熱補助記録時の希薄潤滑液van der Waals力によるヘッド面への液膜の移行現象や液膜の不安定現象なども解析し,従来の拡散方程式との相違を明確にする研究を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は磁気ディスク装置のヘッド・ディスクインターフェースにおけるサブナノメートルのトライボロジー現象のモデル化と数理解析に関する研究で,研究成果は日本機械学会論文3編の掲載費,英論文(3編)の英文校閲費と国内・国際会議への参加発表日に使用した.ほとんど予定通り使用し2~3万円の残余があるのみである.
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次年度使用額の使用計画 |
研究成果の第4論文を27年6月に神戸で開催されるMIPE国際会議で発表する.そのための英文校閲費として使用する.国際会議参加登録費と旅費,その後の論文掲載費等は自費で支払う.
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