研究課題/領域番号 |
24560168
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京都市大学 |
研究代表者 |
三原 雄司 東京都市大学, 工学部, 教授 (20287858)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 薄膜 / センサー / トライボロジー / 流体潤滑 / 圧力計測 / 計測技術 |
研究概要 |
本研究では、しゅう動面の形状や粗さを極力変えずに、油膜張力から1GPaの圧力範囲でも高い応答周波数特性と高い耐久性を持つ薄膜型圧力センサの開発、および薄膜型の距離センサを開発し、これらを用いてしゅう動部二面間の挙動と、油膜の正圧から負圧、油膜張力の発生メカニズムの関係を探ることを目的とした。 これまでに、90Cr-10Ni合金のスパッタリング材料を基に、Mnをこの材料上に取り付け、Cr-Ni-Mn合金膜の組成比を変更した高感度圧力センサ材料の性能試験を行い、従来から使用しているCu-Mn-Ni合金に比べて3~5倍の圧力感度を持つセンサ材料の出力確認を進めた。また、Cu-Mn-Ni合金やCr-Ni-Mnのセンサ合金の耐久性と長期安定性を向上させるため、アルミナAl2O3や窒化アルミAlN及びDLCを保護膜としてコーティングし、センサの圧力感度や温度感度の変化を調べた。アルミナや窒化アルミは、純アルミターゲットを酸素もしくは窒素ガス雰囲気中でスパッタリングし、センサ合金を取り付けた基板近傍でアルミ原子と各スパッタリングガスを反応させる反応性スパッタリングで製作したが、製作した薄膜型圧力センサの圧力感度と温度感度の確認を行い、この結果をもとにスパッタリング条件の見直しや最適組成比の確認を行った。また、本研究では低い圧力(1MPa以下)での圧力計測も計測対象となるが、計測回路を従来のホイートストンブリッジ方式による抵抗変化の電圧変換型から、直読式電圧変換方式の回路に変更することで、低ノイズの可能性を探った。 薄膜センサは、上記のセンサ特性の向上により、しゅう動面だけでなく嵌め合い面などでの接触圧力の変化を計測できる。このセンサの更なる薄膜化、S/N比向上及び耐久性の向上により、機械要素部品の長寿命化設計などに極めて有用である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
センサ合金の開発は、90Cr-10NiターゲットをベースとしてCr-Mn-Ni合金を製作し、スパッタリングすることで合金膜を製作した。従来より用いてきたCu-Mn-Ni合金の成膜方法の最適化も図り、Mnの添加量の異なるターゲットを用いることで、圧力感度と温度感度の最適化を目指した。いずれも、油膜張力を含む低い領域(1MPa以下)での圧力計測を可能とする圧力センサ合金の開発であり、本研究の達成目標に沿って進んでいる。なお、本研究では機械のしゅう動面における圧力計測を対象とするため、スチールやアルミニウム合金等が薄膜センサを取り付ける基板材料となるが、基板材料やその大きさによって温度感度が不安定になった。この原因として、スパッタリング法による薄膜成膜時は基板の温度上昇が起こるが、この熱の流れが基板形状と基板をスパッタリング装置に取り付ける治具によって変わり、センサ合金の成膜温度が変わることも一因と考えられる。その他、成膜時に酸素が含有したガスを使用すると、この酸素によってセンサ合金が酸化し、特に温度特性が変化することが分かった。このような不安定性は見られるものの、本研究の当初の計画に沿い、概ね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度以降に使用するしゅう動部の実験試料基板の製作では、テクスチャリングの形状を超深度3D形状測定顕微鏡で計測し、3次元の表面形状を厳密に決定する。非接触式を用いれば、異なる硬さを持つしゅう動形状を正確に把握でき、表面の局部的な凸凹の体積や断面形状等を3次元で把握できるため、上記の表面形状の違いを正確に分類別けできる。これら3次元の表面形状プロフィールを把握することで、潤滑油の表面流れの判断データとする。 超薄型薄膜センサの実現のため、窒素イオンの注入による200MΩ以上の表面絶縁化処理と現有のマグネトロンスパッタ装置での絶縁膜形成の組み合せにより、従来より更に薄い絶縁膜を実現し、超薄型薄膜センサを開発する予定である。表面の形状や粗さが絶縁化処理後も影響を受けないことを確認する場合も、上記の超深度3D形状測定顕微鏡を使用してその形状の比較をする。 上記とは別の超薄膜型センサの実現方法として、ALD法による絶縁膜の形成を検討する。この成膜方法は、絶縁不良の最大の原因であるピンポールが発生しないことが特徴であり、既に400nm厚さのAl2O3膜で絶縁が取れる可能性を見出した。 これらの方法でより研究目的を達成できる方法を選定し、この上にセンサ合金や距離センサ用の合金を0.1~0.2μm形成し、保護膜を形成して総膜厚さ1μm程度の薄膜センサの実現を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は、スパッタリングターゲットのうち、ニッケルや銅の材料を購入しなかったことや、流量計を当初の予定額以下で購入できたことにより残額が生じた。本年度は、2012年の残額と2013年度の予算を合わせて超薄膜化の実現に向けて研究を進める。使用は、成膜装置の成膜材料費 800千円、成膜ガス 100千円、成膜用薬品費 200千円、膜分析費 100千円、しゅう動実験用材料及び加工費230千円を予定している。
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