本研究は,繊維産業において,糸を取り扱う工程で必ず出現する糸を巻き取る工程に着目し,糸を巻き取った巻糸体の内部の状態を明らかにすることを目的としている.巻糸体を形成する際に,糸種や用途に合わせて設定すべき巻糸体形成条件(糸張力,綾角,トラバースピッチ,巻量など)を精密にコントロールすることができるモデルワインダの設計製作を行った.モデルワインダは,巻取部,制御システムとして,近年高性能化が著しいPLCベースのマシンオートメーションコントローラを用い,サーボモータによる全軸同期制御を行った.試験的に巻糸体を形成したところ,トラバースの左右端部の折り返し時に糸の張力が大きく変動することがわかった.送出部では,ローラで糸をはさみながら,巻取部との周速度の差により糸を延伸するが,ローラの加圧力が変動し糸を十分にはさむことができなかった結果,上下20%の範囲で張力変動が生じ,一定の張力を設定することができなかった.引き続き,ローラ材質変更等,形成条件がより精密にコントロールされた巻糸体の形成に向けてモデルワインダに改良を加えている.また,巻糸体全体のX線撮影に先立って,暫定的に巻糸体内部の圧縮の様子を,透明なフランジを介して糸層変位を撮影する方法で検証した.伸縮性の高いポリウレタン糸を用いた場合,糸層の累積に伴って,最大約30%の半径方向ひずみが生じることがわかった.伸縮性の低いポリエステル糸では,半径方向ひすみが5%未満であることがわかった.これは,フランジ接触面におけるデータである.今後,ワインダの改良により精密な巻糸体が形成でき次第,X線撮影を行い巻糸体全体の状態を把握し,順次報告する予定である.
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