研究課題/領域番号 |
24560195
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
片岡 武 神戸大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20273758)
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キーワード | 熱尖端流 / コンプレッサー |
研究概要 |
熱尖端流の強さについて,熱尖端流を発生する加熱物体の形状への依存性を実験により調べた.真空槽内に,厚さ1mm,大きさ100mm×100mmの銅平板2枚を50mm間隔で配置し,(a)一方を加熱した場合,(b)両方を加熱した場合を調べた.さらに,直径50mm,軸方向長さ100mmの(c)銅管を加熱した場合についても調べた.加熱にはシリコンラバーヒーターを用いた.上記した(a)-(c)の場合について,物体の尖端部に生じる熱尖端流の強さをウインドミルの回転数により計測した. 銅平板および銅管の温度が100℃におけるウインドミルと圧力の測定結果より,いずれの物体形状においても圧力が低いほど回転数は高いが,同じ圧力に対して銅管が常に銅板の場合よりも高い回転数となった.また,圧力を10Paに固定したときの回転数と物体温度の関係より,同じ温度に対しては,常に銅管が銅平板の場合よりも高い回転数の流れを発生させていることがわかった. また,上記要因を探るため空間的な温度分布も調べた.その結果,平板では平板間の温度が平板の温度より常に低いが,円管では内部の温度が円管の温度よりも高くなっていた.このため尖端付近に大きな温度勾配が現れ,強い熱尖端流が発生したと考えられる. 結論として,物体の温度を同一にしたときに発生する熱尖端流の強さは,尖端部を持つ物体の周囲形状によって変化することがわかった.平板では,それを重ね合わせた場合でも,発生する熱尖端流の強さは同程度であるが,円管ではより強い熱尖端流が生じる.これは,円管の場合の方が尖端部の温度勾配が大きくなることに起因するのである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
常圧下におけるコンプレッサー試作の準備段階として,まずは低度に希薄な気体中でのポンプを試作して性能評価を行ったが,ウインドミルが回転せず、性能評価をするに至らなかった.その原因として考えられるのは,加熱物体の形状への熱尖端流の依存性である.使用した円柱型の加熱物体では,生じる熱尖端の強さや方向が実際にはよくわかっていないのである。つまり、熱尖端流の加熱物体への影響が系統的に調べられていないのである.過去の研究においても,この基礎的な調査を行った研究は皆無であった. そのため,まずは本研究において,熱尖端流の加熱物体形状への依存性を調べるための実験を行った.流れを生じさせるデバイスとして,1枚の平板,2枚の平板を隣り合わせたもの,円管の3パターンを試した.その結果円管でも、強い熱尖端流が生じることが判明したが,温度分布によっては尖端部を垂直に横切る流れとなる場合があり,これがコンプレッサーとしての役割に寄与しないことが判明した. 以上のような想定外の事態,およびその原因解明のために行った実験のため,現段階では交付申請書の記載した達成度よりもやや遅れている,という現状にある.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,上記した基礎実験による知見をもとにして,常圧下における熱遷移流を利用したコンプレッサーを試作する予定である.上記した加熱物体形状への依存性より,円柱でも温度分布に注意すれば、強い熱尖端流の生じることが分かった.そこで常圧下で,希薄気体効果である熱尖端流を生じさせるためのデバイスを試作する.そのためには,系のスケール,具体的には管路の直径を,分子の自由行程の程度すなわちμmのオーダーにする必要がある.こういった細管を多数束ねて数cmの管内に納め,軸方向に温度差をつけることで気流を生じさせる.これを1つのユニットとし,このユニットを直列に数段あるいは数十段並べることにより,上流,下流間の圧力差を大きくする.このデバイスにより,性能評価を行う予定である. なお,より実験効率を向上させるために,可能であれば数値シミュレーションによる性能評価も行いたいと考えている.
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