まずは準備段階として、常圧下における実験を行う前に、低度に希薄な気体中で熱尖端流を生じさせるための実験をおこなった.流れを生じさせるデバイスとして,微小な間隔で並べた平板を用いた.平板同士の間隔は0.1mmのオーダーのものを数パターン採用した.ヒーターおよび冷半導体を用いて平板列の両端に温度差を与え,その温度勾配により熱尖端流が生じることを確認した.次にこの平板列を1ユニットとし,長い直管内に等間隔で数ユニット配置した.数ユニット配置することにより,上流,下流間の圧力差を大きくするようにした.この装置では,管内に配置されたユニット間のつなぎ目の空間に逆の温度勾配が働くが,そこでは代表長さが長いために流れに対する駆動力が働かない.つまり逆方向の熱尖端流は誘起されない.よって温度分布を周期的に設定することができ,装置全体の温度差を低く押さえることができた.円管の上流側を,新たに製作した気密容器につなぎ,下流側を大気に解放し,上流側の圧力を測定することにより,排気装置としての性能を調べた.1.1倍程度の圧力上昇を測定した. 続いて、ユニット間の距離,平板間距離,温度分布,および様々な運転条件における圧力上昇の依存性を知るために,運動学的方程式を用いた直接シミュレーションによる数値実験をおこなった.それによると,系の希薄度を表すパラメータであるKnudsen数が0.1程度のときに最大の圧力上昇度が得られることなどを明らかにした.今後は,上記した基礎実験,および数値実験による知見をもとにして,常圧下における熱尖端流を利用したコンプレッサーを試作する予定である.
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