研究課題/領域番号 |
24560208
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
山口 隆平 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (90103936)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 動脈瘤 / ステント / 壁せん断応力 / PIV / バイオメカニクス / 弾性壁 / 流れの可視化 / 脳血管 |
研究概要 |
脳動脈瘤の治療法としてステント留置効果を実験的に検討した。拍動流に伴って、瘤壁が膨張収縮する動脈瘤内の流れ構造に及ぼす薄膜から構成された瘤壁弾性の影響を明らかにし、動脈瘤治療としてステント留置による瘤内流れの閉塞による治療効果を実験的に検討するものである。動脈瘤モデルは薄膜からなり、動脈瘤内を作動流体が通過するとともに、同時に別系統の流路により瘤外壁を取り囲むように満たされ、この圧力調整室を設けることにより、拍動に対して動脈瘤壁が膨張収縮する構造となっている。同時に、剛体モデル流れと比較検討し、壁弾性の影響とステントによる瘤内流れ閉塞効果を解明する。 本年度は、弾性壁の影響を検討するため、弾性および剛体モデルとの比較、直管剛体側壁動脈瘤内流れへのステント効果を検討した。脳動脈瘤の入口ネック部の開口径N=6mmに対する瘤直径の比であるアスペクト比を臨界値を超えたAR=2.0として、拍動に伴う瘤直径12mmの膨張収縮比が4%程度となるように考慮すると、瘤薄膜厚さは0.4mmとなる。瘤壁内に作動流体を流すとともに瘤壁外に同一作動流体を満たすことにより、拍動に伴い膨張収縮する右図に示す薄膜弾性壁モデルを構成する。流れは、上流側から動脈瘤のある流れ分割点に衝突した後、バイパスと下流管に分岐していく。弾性瘤モデルでは、壁せん断応力が最大値で30%程度、瘤壁全体および時間にわたる平均値で比較すると10%程度減少することから、瘤壁の弾性は壁せん断応力の低減化を誘引し、瘤閉塞を促し、瘤破裂を抑制することが明らかとなった。次に、ステントの基本効果を検討するため、直管側壁に設けた剛体動脈瘤流れへの影響を検討したところ、ステントの留置により瘤内壁せん断応力が70%減少し、閉塞効果をもたらすことを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、拍動流に伴って弾性薄膜瘤壁が膨張収縮する動脈瘤内のステントによる流れの閉塞に関する効果を、弾性および瘤壁に沿うせん断応力の挙動から検討するものである。 まず、弾性壁の影響を検討するため、脳動脈瘤の入口ネック部の開口径Nに対する瘤直径の比であるアスペクト比が臨界値を超えた2.0として、拍動に伴う瘤直径の膨張収縮比が4%程度となるように考慮した。この基本サイズを念頭に、瘤壁内に作動流体を流すとともに瘤壁外に同一作動流体を満たすことにより、拍動に伴い膨張収縮する薄膜弾性壁モデルを構成する。初めに、拍動(正弦波状の流量変動)に伴う瘤壁の挙動を解明する。流れ場を、PIVを用いて収縮および拡張期の一周期にわたる壁変位と速度ベクトルを捉える。このうち壁近傍の速度ベクトルから各周期の壁せん断応力を評価する。同時に、対応する定常流れの構造を評価し、拍動に伴う壁せん断応力を検討した。弾性壁動脈瘤では、剛体壁動脈瘤に対し、明らかな拍動に伴う壁せん断応力の低減効果が示された。したがって、弾性壁の定量的な効果が立証された。 次に、剛体動脈瘤開口部に基本的なベアメタルステントを留置することにより、瘤内流れの閉塞効果を検討した。剛体直管側壁の動脈瘤開口部に取り付けたステントでは、瘤内壁せん断応力の最大値が60%低減されることを示されているが、分岐部に取り付けたステントの場合、流れが阻害されることから流れ構造の変化が生じ、瘤内流れはステントの無い場合に比べて、流れがスプリットし、単純に比較は出来ないことが明らかとなったが、壁せん断応力の低減効果が期待される。現在、この実験の再現性を検討しているところである。ステント留置による流れの複雑化をみたが、明らかに壁せん断応力の低減化が認められる。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度、直管側壁の動脈瘤壁に沿うせん断応力へのステントの低減効果、脳動脈瘤モデルの弾性の壁せん断応力の低減を解明できたので、今年度はステントの効果を脳動脈分岐部に発生した剛体動脈瘤モデルでステントの有無に関して、定常流および拍動流における現象を対象とする。 剛体壁動脈瘤モデルに対するステント留置に関する壁せん断応力の低減化に関して調査する。剛体モデルでは、拍動を吸収する弾性を持たないため、拍動に対して瘤内の速度が減衰せず、壁せん断応力の変動は減衰しないことが予測される。この単純化されたモデルを基本として、瘤入口にステントを留置した影響を検討する。 拍動流の最大、平均、および最少流量に相当する定常流れについてPIVにより捉え、速度ベクトルから瘤壁周りの壁せん断応力を評価する。次に、拍動時における流れ場を同じくPIVにより捉え、速度ベクトルから瘤壁周りの壁せん断応力を評価する。同時に、PIVにより得られた壁近傍のベクトルから求めた壁せん断応力の妥当性を検証するため、LDAにより壁近傍の速度ベクトルを評価し、PIVから得られた壁せん断応力の妥当性を検証する。これらを、ステントの無い動脈瘤モデルとステントを留置したモデルに対して実施する。 ステントの留置に伴い、瘤内流れは単純な一方向に旋回するとは異なり、瘤内で流れが複雑化し、流れがスプリットすることが予想される。これらの流れ構造を定常、および拍動流について検討し、ステントの留置が動脈瘤内流れの減速化、強いては壁せん断応力の低減化を誘引することを実験的に検討する。 これらの結果を踏まえ、瘤内速度の減速化、および壁せん断応力の低減化の周波数特性を確立し、ステントの効果を検討する。さらに、前年度に調査した弾性壁特性との比較検証を行い、剛体壁特性を確立する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
実験を実行するに当たり、シリコン動脈瘤モデルと同一屈折率になるグリセリン溶液(1,300円/本:500ml)を、一回の実験当たり20本要し、この作動流体を少なくとも10回作り変える必要がある。さらに、PIVの測定で必要になる蛍光粒子は1cc当たり10万円であり、これを数本要する。作動流体としてグリセリン溶液、PIVで使用する蛍光粒子、実験装置の改良に材料費としておよそ35%を要する。 昨年度の実績を公表するため、今夏パトラで開催される第19回欧州生体国際会議出張旅費、6月の第36回バイオレオロジー学会年会、11月の日本機械学会バイオフロンテイア講演会、明年1月の日本機械学会バイオ部門講演会等の国内学会出席旅費等で30%を、邦文誌、英文誌への論文掲載費用として20%を要する。 実験では、時間変動する拍動流の実験を実施するため、そのデータ量は膨大なものとなる。この実験データの処理には、容量の大きな、かつ演算速度の大きなパーソナルコンピュータ(購入費10%)を使用することが不可欠となる。 大まかな、使用内訳は上述の通りです。
|