研究課題/領域番号 |
24560208
|
研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
山口 隆平 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (90103936)
|
研究分担者 |
田中 学 千葉大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20292667)
|
キーワード | 動脈瘤 / ステント / 壁せん断応力 / PIV / バイメカニクス / 弾性壁 / 流れの可視化 / 脳血管 |
研究概要 |
脳動脈瘤の治療法としてステント留置と壁弾性の効果を実験的に検討した。拍動流に伴って、瘤壁が膨張収縮する動脈瘤内の流れ構造に及ぼす薄膜の瘤壁弾性の影響、動脈瘤治療としてステント留置による瘤内流れの閉塞に至る治療効果、および弾性壁動脈瘤に対するステント留置の合併効果を実験的に検討した。弾性動脈瘤モデルは薄膜からなり、壁弾性の効果を引き出す工夫として、動脈瘤内を作動流体が通過するとともに、別系統の流路により瘤外壁を取り囲むように満たされた圧力調整室を設けることにより、拍動に対して動脈瘤壁が膨張収縮する構造となっている。同時に、剛体モデル流れと比較検討し、壁弾性の影響とステントによる瘤内流れの閉塞効果を検討した。 脳動脈瘤のアスペクト比が臨界値を超えたAR=2.0として、拍動に伴う瘤直径12mmの膨張収縮比が4%程度となるように考慮すると、瘤壁厚さは0.4mmとなった。流れは、上流側から動脈瘤のある流れ分割点に衝突した後、バイパスと下流管に分岐していく。 剛体動脈瘤モデルにステントを留置した場合、動脈瘤中間面にある瘤壁のせん断応力が最大値で45%程度、空間面および時間にわたる平均値で比較すると35%程度減少することから、ステントは壁せん断応力の低減化を誘引し瘤閉塞を促し、瘤破裂を抑制することが明らかとなった。瘤内壁のせん断応力に対して、弾性壁では最大値で30%程度、空間及び時間にわたる平均値で10%程度減少することから、ステントと同じく壁弾性もせん断応力の低減化を誘引し、瘤閉塞を促すことを確認できた。 これらの結果の内、ステントによる成果は国際会議で口頭発表2件、かつ1件を英文誌に投稿中である。弾性壁効果に関しては口頭発表1件、かつ英文誌への投稿1件を投稿準備中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、拍動流に伴って薄膜弾性壁が膨張収縮する動脈瘤入口に留置したステントによる流れの閉塞に関する効果を、壁弾性およびステント留置による瘤壁に沿うせん断応力の挙動から検討するものである。 まず、弾性壁の影響を検討するため、流入動脈径8mmに対し、脳動脈瘤の入口ネック部の開口径Nに対する瘤直径Dの比であるアスペクト比が臨界値を超えた2.0として、拍動に伴う瘤直径の膨張収縮比が4%程度となるように瘤壁厚さを0.4mmに調整した。管径などの基本サイズは、人体脳動脈の3倍にスケールアップしてある。初めに、拍動(正弦波状の流量変動)に伴う瘤壁の挙動を解明する。CCDカメラを用いて、この瘤壁変位の収縮および拡張期の一周期にわたる変形を捉える。この壁変位を分析した結果、その膨張収縮比は4%と得られ、実動脈瘤の変形を実現出来た。PIVにより速度ベクトルを捉え、このうち壁近傍の速度ベクトルから各時刻の壁せん断応力を評価した。同時に、対応する定常流れの構造を評価し、拍動に伴う壁せん断応力を剛体壁に対し検討した。弾性壁動脈瘤では、壁せん断応力の最大値、空間・時間平均値に対し、明らかに拍動に伴う低減効果が示された。したがって、壁弾性のせん断応力低減を定量的に実証できた。 次に、分岐部の剛体動脈瘤開口部に間隙率5%のストレートなベアメタルステントを留置することにより、瘤内流れの閉塞効果を検討した。分岐部に取り付けたこの基本的なステントで、流れが阻害されることから流れ構造の変化が生じ、瘤内壁のせん断応力はステントにより、最大値で45%、空間・時間平均値で35%低減した。 現在、この実験の再現性を検証しているところである。最終的にはCFDとの併用が有効である。
|
今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画どおり進捗しており、弾性、ステントの効果を解明しつつある。しかしながら、実験で把握できない瘤外の領域、特に瘤ネック部に接近する流れ及び二次流れや、これらの領域の壁せん断応力の挙動を明らかにすることが必要である。そのためには、CFDによる数値アプローチが有力な手段である。 そこで、実験で用いた剛体および弾性壁動脈瘤モデル流れをANSYS及びNDSによる数値解析を予定している。実験では、瘤内流れと瘤外部の分岐部の流れの速度差が大きく、流れ場全体を同時に把握することは出来ない。そこで、これらの問題を解決する手段としてもCFD解析は意義を持ってくる。もちろん、CFD解析は飽くまでも実験結果を補完するものである。各種境界条件を設定し、ANSYSによる剛体壁動脈瘤モデル流れを解析に着手する。 次に、脳動脈瘤モデルの壁弾性のせん断応力低減を実験的に解明できたので、最終的な拍動流における壁弾性の効果をDNSによる流体構造連成解析(FSI)により検討する。 ステントを留置した場合、瘤内流れは単純な一方向の旋回流と異なり、瘤内で流れが複雑化し、瘤中間面で流れがスプリットすることを確認した。これらの流れ構造を定常、および拍動流について検討し、ステントの留置が動脈瘤内流れの減速化、強いては壁せん断応力の低減化を誘引すること、およびその構造的効果をCFDにより検討する。 これらの結果を踏まえ、瘤内壁せん断応力の抑制、その結果生じる瘤の閉塞効果、および壁せん断応力低減を検証し、瘤壁弾性およびステントの効果を確立する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
前年度、瘤壁が膨張収縮する動脈瘤内の流れ構造に及ぼす薄膜の瘤壁弾性の影響、動脈瘤治療としてステント留置による瘤内流れの閉塞に至る治療効果、および弾性壁動脈瘤に対するステント留置の合併効果を実験的に検討した。同時に、剛体モデル流れと比較検討し、壁弾性の影響とステントによる瘤内流れの閉塞効果を検討した。しかしながら、蛍光散乱粒子の納期不足と、作動流体の納期不足、および論文掲載遅れのため、消耗品、および論文掲載料を翌年度回しとした。また、翌年度は更なる追実験を要すために次年度への繰越額となった。 動脈瘤内の流れをPIVにより可視化する更なる必要がある。弾性壁動脈瘤、ステント挿入モデルの血行状態を検証し、WSSを評価する必要があるため。さらには、論文掲載料として充てる。
|