研究課題/領域番号 |
24560213
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪産業大学 |
研究代表者 |
近江 和生 大阪産業大学, デザイン工学部, 教授 (10144536)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 流体工学 / 3次元流体計測 |
研究概要 |
位相シフト方式のデジタルホログラフィを3次元の粒子流速計測法に適用し、撮影されるホログラムの画質を大きく高めて粒子の3次元位置の捕捉精度を高めるとともに、計測手法そのものを計算機トモグラフィによる計測手法とハイブリッド化することにより、流速測定の実用性と精度を向上させることを研究の第1目的としている。 この研究目的に向けて、平成24年度は周波数シフト方式によるホログラム画像の記録と数値再生を試みた。この手法の実現のため、現有の装置であるマッハツェンダー干渉計の光学系を活用し、その2系統の光路にそれぞれAOM素子(専用ドライバを含む)とシャッター、そして高精度のデジタルファンクションジェネレータを導入し、電気的な周波数シフトによる位相差ホログラム画像の撮影を試みた。 その一方で、ハイブリッド法のもう一方の要である計算機トモグラフィによる粒子像の捕捉方法についても、複数カメラの撮影法と校正方法、計算機トモグラフィの再構成アルゴリズムの高精度化と効率化、再構成画像からの粒子位置の捕捉アルゴリズムの改良などを試みた。計算機トモグラフィによる粒子像再生には、いわゆるゴースト像の発生という大きな問題点があり、そのため従来手法に対して新たな改善の試みを行った。 その結果、周波数シフトによる位相差ホログラム画像の獲得については、導入したAOM素子のドライバの安定性や、AOM素子自体の変調周波数とカメラの走査周波数のオーダーの大きな相違により、予定された精度の周波数シフトを得ることが困難であると思われた 。この状況を改善するため、ドライバについては回路の自主製作により安定化を目指し、周波数差に関しては使用カメラを高速度カメラに変更する等の改善手法を準備中である。計算機トモグラフィの手法改善については幾つかの有益な研究成果が得られ、その内容は日本機械学会の英文誌やIJICICの英文誌で公表されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
3次元の画像流体計測に関する方法論の研究は比較的順調に進んでいる。3次元計測を可能にする2つのキーテクノジーのうち、計算機トモグラフィの研究は特に実用性や精度の点で満足すべきシステムが整いつつある。具体的には、特段に高機能・高性能でない撮影機能や照明装置、比較的限られた計算機資源の環境においても、実用的精度の3次元速度計測が可能となりつつある。 しかしもう一方のキーテクノジーであるデジタルホログラフィの研究については、精度改善の重要なステップである新たな位相シフト方式の実現にやや手間取っている。具体的には、正確に1/4波長ずつ光路波長のずれたホログラム画像をカメラの撮像面に記録するためのヘテロダイン発振回路の安定性と、発振周波数とカメラの走査周波数とのオーダー差の問題でやや行き詰まっている。 ホログラフィの精度改善を実現するシステム開発の手間取りに対応して、その応用課題であるマイクロチャンネルのモデル制作や流動計測も遅れているが、モデルのプロトタイプはすでにデジタルホログラフィの研究に着手した2年半前に完成しており、新たなチャンネルモデルの制作は今後順調に推移するものと考えられる。以上、総括して研究の推進状況はやや遅れていると評価されるが、課題の一部では当初の予想以上に順調に推移している部分もあると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度の研究では、新方式の位相シフトホログラフィにおけるAOM発振回路の安定化と、撮影カメラの走査周波数差の問題解決に重点を移行する。それと並行して、粒子の再生画像からその奥行き位置を高精度かつ効率的に決定する新たな画像解析アルゴリズムの開発とその検証に研究の主眼点を移行させる。ホログラム再生像から個々粒子の奥行き位置を決定する画像解析手法については数々の方法が提案されてはいるが、その多くは再生画像における粒子近傍の画素輝度や画素輝度の微分量の奥行き方向変化を判断材料として粒子の合焦位置を決めている。これに対して本研究では、再生粒子像に対する輝度信号ピークの幾何学的形状に着目した判定量により粒子の合焦位置を決定する方法を試みる。より具体的には、再生画像における各粒子の輝度ピークの尖度 (skewness) を画像解析アルゴリズムにより求め、その値が奥行き方向の変化で最小となる位置を当該粒子の合焦位置とする方法である。 輝度ピークの尖度はノイズの少ない理想的なピーク形状であれば半値幅等で評価できるが、再生粒子像の輝度ピークは不規則な凹凸の多い非軸対称の形状であり、半値幅のばらつきがかなり大きいため、本研究では別の定義方法を考案する。まず切り出し容積一定の条件で輝度ピークの各々に個別の輝度閾値を設定し、その閾値レベル以上の部分に対するピークの平均高さと、閾値レベルでピークを切断した場合の切断面積の比を尖度として定義する。この定義による輝度ピークの尖度は、前記の通り再生画像の残留ノイズや輝度値のスケーリング手法による影響を受けにくいため、高精度の粒子奥行き位置の決定が見込まれる。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記の研究の推進方策にしたがって、平成25年度の研究ではまず最初に、AOM発振回路(とりわけドライバ)の安定化のための機器部品の購入と、それに伴う専門家への知識提供の謝礼支払いが見込まれる。これと並行して、AOM発振回路とカメラの走査周波数とのオーダー差の問題を解決するため、できれば新たに高速度デジタルカメラを購入したいところであるが、予算上の制約から手持ちの古い年式の高速度カメラ(走査周波数は1kHz以下)を再調整の上で利用するか、最新鋭の高速度カメラを短期間レンタルするか等の対応を予定しており、そのための修理営繕または賃借の費用支払いが見込まれる。その他の研究費使用に関しては、前年度と同じく実験装置製作のための消耗品費用や加工費用、電気電子の回路部品や工学部品購入のための消耗品費用、研究補助(学生アルバイト)への謝礼金、研究成果発表のための内外学会出張旅費、そして研究成果の公表費用が予定される研究費使用の主な内訳である。
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