本研究は、最近脚光を浴びている炭素繊維やアラミド繊維など「産業用繊維」において、従来の衣料製織技術と同様に、空気流を利用して飛ばしたり保持したり移動させるなど、繊維を自在に操るための空気力学的特性を明らかにすることを目的としている。代表的な産業用繊維を入手し、その繊維の特徴を観察するとともに、空気抗力を測定するための実験装置を製作した。産業用繊維は、そのまま使用されることもあるが、多くはFRPのようにプラスチックの強化材として使用されることが多く、あらかじめサイジング剤でテープ状に成形されている。そこで、本研究では従来の円形断面を持つ糸ならびにテープ状の素材を使って、その形状が空気抗力に及ぼす影響とはためきの影響について検討した。この結果、単繊維や細い繊維を収束させた円形断面をもつ糸では、空気摩擦抗力係数は糸半径を代表長さとする半径レイノルズ数で整理できることがわかったが、テープや細い繊維をテープ状に収束させた材料では、剛体平板と同様に、繊維長を代表長さとする長さレイノルズ数で整理できることがわかった。ただ、空気抗力係数の大きさに影響を及ぼす因子としては、次のようなものがあげられる。繊維の両端を固定した時より一端を解放した自由端条件の時のほうが抗力係数は大きい。また、テープ幅がある程度あると抗力係数は一定となるが、テープ幅が狭くなると抗力係数は増加していく。さらに、自由端条件でも繊維の剛性が高い場合には剛体平板に近い抗力係数を示すが、繊維の柔軟性が増すと抗力係数も増加していく。これらは、いずれも繊維が空気流によって振動する、いわゆる「はためき」が起こりやすい条件となっており、テープ状の形状を持つ繊維集合体では、この点が空気抗力係数に大きな影響を及ぼしていることが明らかとなった。断面が円形から矩形に変化する過程での変化、はためきについても今後詳しく検討していく必要がある。
|