研究課題/領域番号 |
24560218
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小原 拓 東北大学, 流体科学研究所, 教授 (40211833)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 熱工学 / 分子伝熱 / 界面熱抵抗 / 液体 / ポリマー |
研究概要 |
ポリマー液体及びソフトマターを対象として、その不均一・非等方的構造を手がかりに、熱輸送の特異性とその分子スケールメカニズムを大規模な分子動力学シミュレーションを用いて解析するのが本研究の目的である。広い工学的応用が期待される系であることと、典型的な物理化学現象を観察できる普遍性をもつ系であることを考慮して計算対象を選択する必要がある。今年度は初年度として、特に固体-ポリマー液体の界面について研究を開始した。ポリマーとしては最も基本的な長鎖分子である直鎖アルカンを選択し、まず、固体表面の影響を除いた液体表面について計算系を構築し、解析を行った。今年度は特に物質輸送現象に着目し、界面近傍におけるアルカン分子の自己拡散係数を計測すると共に、分子の配向や伸長の様子など界面近傍の構造を解析して、その関係を明らかにした。 アルカン液体の熱輸送を解析するための基礎研究として、バルクアルカン液体をAll-Atomモデルで模擬した計算系について熱伝導の非平衡分子動力学シミュレーションを実施し、広く用いられているUnited-Atomモデルによる結果と比較検討した。この結果、All-Atomモデルによるシミュレーションでは、United-Atomモデルでは粗視化されているC-H結合が熱エネルギーの伝搬に及ぼす影響が過大になる傾向が見い出された。本来量子化されているC-H間の伸縮振動が古典力学的に解析され、エネルギーの分配が課題になるためであると考えられる。 さらに、半導体製造工程やMEMS/NEMS製作において重要なSiO2固体壁を対象として、これに接するアルカン液体の構造や輸送特性を解析するための分子動力学計算系の構築を開始して、予備的な結果を得つつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
直鎖アルカン飽和液を対象として、その輸送特性の解析を基礎から整然と積み上げるための研究を順調に行うことができた。アルカン液体表面の解析により見い出した、固体表面の影響がないアルカン表面独自の特性は、今後実施する固液界面の解析と比較検討することにより、アルカン液体の構造と輸送特性の影響を解析するための重要な基礎となる。また、バルクアルカン液体について見い出したC-H間結合を適切に取り扱うための知見は、今後現実の現象を忠実に再現するための準備として重要であった。次年度の解析にあたっての準備として、アルカン液体-SiO2固体壁の界面について分子系の構築をほぼ終えている。
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今後の研究の推進方策 |
アルカン液体-SiO2固体壁の界面については、すでに構築をほぼ完了した計算系を用いて、まず構造と物質輸送特性(液体分子の自己拡散)を解析する。前年度に完了した固体壁面の影響を除いた液体表面の構造と輸送特性の結果と比較検討し、固液界面近傍の特性を明らかにする。また、固液界面近傍で液体中に特異な構造が観測された場合には、熱輸送特性の解析を実施し、構造と熱輸送特性の関連を明らかにする。界面垂直方向の熱伝導については解析手法など見通しがついているが、界面平行方向の熱伝導については現時点ではシミュレーション手法も含めて模索中である。 アルカンの気液界面近傍については、いわゆるIntrinsic Interfaceの考え方を用いて、界面におけるゆらぎの影響を排除した解析結果を得ることを試みる。界面特有の構造が顕著に表れるものと期待される。 さらに特殊な系として、溶媒で希釈されたポリマー液体やハイドロゲルなどソフトマターについて解析を行うべく、計算系の構築など準備を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
分子動力学シミュレーションによる大量のデータが蓄積されつつあるので、データストレージやハードディスクドライブなど計算機用消耗品を購入する。また、得られた研究成果を学会に問うて適切な批評を受けるため、学会における発表を重視している。国際会議も含む複数の学会で発表するための出張旅費を支出する。シミュレーションの実行およびデータ解析や関連論文の探索などについては、大学院生の支援を受けている。一部を謝金として支出する。
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