研究実績の概要 |
ポリマー液体やソフトマターを対象として、その構造に発現する不均一性・非等方性に着目し、熱輸送の特異性を分子動力学シミュレーションにより解明するのが本研究の目的である。直鎖アルカンを液体の主な解析対象として選択し、(a)バルク状態の液体、(b)気液界面、(c)応用上重要なSiO2(シリカ)固体表面と接する固液界面、の3項目について、構造や熱輸送特性を解析した。また、脂質分子が整列した二重膜に対して、熱輸送特性を解析した。3年間の研究により、以下の成果を得た。 1. バルク液体の熱伝導率を解析する手法はほぼ確立されているが、分子モデルに許容される運動自由度についての議論はこれまで存在しなかった。本研究における検討により、C-H間の振動を古典力学的に解析するAll-Atomモデルが原理的に過大な比熱と熱伝導率を与えることが明らかとなった。 2. 気液界面における特有の構造を観察することは、気液界面の位置が常に変動し、時間平均像では界面近傍の特性も平均化されて消失してしまうため容易ではない。本研究では、Kikugawaらの瞬時界面捕獲法(Computers and Fluids, 36, 2007)を適用し、分子の配向など特異な構造が気液界面に存在することや、自己拡散係数が界面近傍で急激に変化することなどを見出した。 3. 固液界面において液体分子が形成する特異な層状構造における熱輸送特性を調べた研究はほとんど存在しない。また、実用的な固体-液体の組み合わせに対する界面熱抵抗は固液ナノシステムの総括的な熱輸送特性を支配する重要な特性である。これらの解析により、固体壁面近傍の液体中では熱伝導率が空間的に振動的な挙動を示すことなどを明らかにした。 4. 脂質二重膜の解析により、二重膜構造における単層膜間の界面が示す熱抵抗が、脂質尾部の鎖長の組み合わせによって異なることなどが明らかとなった。
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