研究課題/領域番号 |
24560225
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
鈴木 正太郎 長岡技術科学大学, 工学部, 准教授 (10282576)
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キーワード | 熱泳動 / 微粒子状物質 / 微小重力実験 |
研究概要 |
本研究は、微粒子状物質の挙動を理解し環境技術に役立てるための基礎研究であり、微粒子の挙動に影響を及ぼす熱泳動現象について、気体の組成が及ぼす効果を明らかにすることを目的としている。二年目である本年度は、初年度の実験により得られたデータの解析結果をもとに熱泳動現象のモデル化への検討を進めるとともに、水蒸気を用いた実験を行うための装置改良を進めた。 前者については、初年度に得られた実験データに基づいて、本研究より以前に得ていたデータの評価を行い、本研究での注目点となっている水蒸気の効果に関する検討を進めた。本研究以前の実験では、空気中に水蒸気が含まれると熱泳動速度が大きくなるという結果を得ている。一方、本研究の初年度に得られた結果を検討したところ、気体分子の衝突半径が熱泳動効果に影響している可能性があることが見えてきた。分子レベルの衝突現象を物理モデルとして考えたとき、衝突半径が大きいときに熱泳動効果が小さくなるという想定は理にかなっており、初年度に得た実験結果とも矛盾しない。しかし水分子にこの考えを当てはめると、熱泳動速度が小さくなるべきであるということになり既存の実験結果とは矛盾してしまう。この問題を解決するため、気体の混合や分子の極性などの影響を検討したが、本年度内に解決の糸口を見つけることはできなかった。 一方、後者については、初年度に完了した基本設計に基づき装置改良を進めた。水蒸気での実験のためには装置全体を加熱する必要があるため、装置の中核部分に断熱処理を行い、電子機器等の保護対策を進めた。この作業の中で、高温からの保護のためにレンズ・カメラ系の配置を修正する必要が生じてしまった。これが映像の輝度減少を引き起こし、熱泳動速度の計測が困難になる問題を生じた。この対策のために時間がかかり、追加機器導入の予定も見直さねばならず、年度内に改良を終えることができなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
第 2 年度である本年度の計画では、水蒸気での実験を進めるとともに、初年度の実験データを中心に解析を行い、理論モデルを検討することを予定していた。このうち、前者の水蒸気での実験が予定通りに実施できず、残念ながらこの点については予定より遅れているといわざるを得ない。一方、後者の検討については、現時点で水蒸気の影響に関する謎が深まりモデル構築を進めるうえでの大きな課題になってきている一方で、初年度のデータに基づいた解析については十分に進めることができており、検討作業としては概ね順調である。したがって、総合すると「(3) やや遅れている」の達成度と評価される状況であると考えている。 実験が予定通り実施できなかったのは、実験装置の改修作業が当初の計画通りに順調には進められなかったからである。計画の見通しが甘かったといわれれば完全に否定することはできないが、実際に作業を進めていく中で見えてくる問題も多く、やむを得なかったと考えている。具体的には、装置の中核部分に断熱材を配置して高温対策を立てる作業が予想よりも困難で、様々な修正が必要となり、これに時間をとられる結果となった。中でも、レンズ・カメラ等の光学系の配置の変更が必要となる状況は、計画段階では見通すことができなかった。この変更によって、計測データを処理するために必要となる映像の輝度が確保できなくなり、その対策をさらに行う必要が発生し、結果として、本年度内に実験を実施する状態まで到達することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
水蒸気の実験の遅れを取り戻すため、装置の改修作業を最優先で進めていく。輝度不足の問題を解決するため、レーザ光源の強化や高速度カメラの変更を検討している。当初の計画では、粒子速度の上昇に対応するために第2年度に高速度カメラを新規導入する計画であったが、その予算をまだ執行していない。これを用いて、映像の輝度確保を優先した機材導入を行いたいと考えている。この修正により、計画に比べると低圧側のデータが得られにくくなる可能性はあるが、本研究の目的全体を毀損するほどの問題ではないと考えている。 一方、理論モデル構築への検討作業については、現時点で「水蒸気の謎」が最も大きな課題となってきている。従来の知見にはなかった新たな発見につながる可能性もあるが、早計に結論づけず、データの精度の検討などを慎重に進めていきたい。この作業の中身は、事前に計画して進めていく類いのものではなく、事前の計画で想定している範囲内である。
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次年度の研究費の使用計画 |
実験装置の改修作業を進める中で当初の計画にない問題が生じたため、機材導入の予定を再検討することとし年度内の購入を行わなかったことが、次年度使用額が生じた主たる理由である。当初計画では既存品よりコマ速度の速い高速度カメラを導入する予定を立てていたところ、改修に伴う映像の輝度低下が深刻な問題として浮上し、予定通りの機材の導入で実験が遂行できるかどうか分からない状況になった。このため、予定の機材導入をいったん見合わせ、対策を検討したうえで改めて最適な機材を購入することにした。 映像の輝度低下の問題を解決し、最も効果的な実験が行える機材をあらためて選定し導入する。現時点では、計画よりもコマ速度の要件を緩和し、より感度を重視した高速度カメラを導入することを検討している。また、既存品より強力なレーザ光源の新規導入なども別の案として考えている。いずれにせよ、装置の改修が計画より遅れているので、改修・実験を最優先に研究を遂行していく。輝度低下の問題への解決策がまとまり次第、必要な機材を購入し、遅れている実験を実施していく予定である。
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