本研究は、微粒子状物質の挙動を理解し環境技術に役立てるための基礎研究であり、微粒子の挙動に影響を及ぼす熱泳動現象について、気体の組成が及ぼす効果を明らかにすることを目的としている。当初の計画では、水蒸気を雰囲気としたときの熱泳動速度の計測を前年度までに行う予定であったが、水蒸気での実験が当初の想定以上に困難であったため、予定通りの実施ができなかった。そこで最終年度である本年度は、まず装置の改良作業を行った。装置を構成する部品を耐熱製品と交換し、また、高温条件下での装置の気密性を改善する作業を進めた。その結果、圧力が10 kPa から30 kPaまでの限られた条件ではあるものの、水蒸気雰囲気下で熱泳動速度を計測できるようになり、水蒸気の基礎データを取得することができた。 圧力を変化させたときの結果は、水蒸気が他のガスと異なる特性を持つ可能性を示唆するものだった。実験結果から熱泳動パラメータを推定して理論予測を行うと、実験結果に比べて圧力依存性が低くなり、熱泳動パラメータを調節してもこの違いは解消できなかった。すなわち、高圧側で理論予測を実験値と合わせると、低圧側では理論予測が実験値に比べて過小となった。一方で、得られた結果から湿り空気中の熱泳動速度を算出したところ、湿度が高いほど熱泳動速度が大きくなるという傾向を定性的には再現することができた。 本研究では、当初の目的のうち、水蒸気を含む種々の気体について熱泳動の基礎データを収集するということについては達成することができた。一方、理論モデルの構築については、水蒸気以外のガス(アルゴンや窒素、二酸化炭素など)に対して概ね達成できた。湿り空気に対しても予測できるようにするためには、より低圧の条件での水蒸気の実験データを蓄積し、実験データと予測値との間にある、水蒸気に関する圧力依存性の不一致の問題を解明する必要がある。
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