研究課題/領域番号 |
24560241
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 工学院大学 |
研究代表者 |
大竹 浩靖 工学院大学, 工学部, 教授 (40255609)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 熱工学 / 沸騰 / 限界熱流束 / 核沸騰 / MEMS / キャビティ / シリコンウエハー / 赤外線放射温度計 |
研究概要 |
本研究は、MEMS技術にてマイクロメートルオーダーの微細な円孔を加工し、この一点のみから発生する制御された沸騰気泡システムを作り上げ、その制御された単一沸騰気泡による限界熱流束を実験的に検討するものである。 初年度である平成24年度は、前半、まず予備実験として、電子回路用銅薄膜製のプリント基板を加熱面として実験的検討を試みた。具体的には、マイクロメートルオーダーの傷しかないプリント基板上に、ウェットエッチングにより、数十μmの円孔キャビティを作り、これを沸騰核として、核沸騰および限界熱流束の実験を行った。この実験により、沸騰実験のノウハウを蓄積するとともに、MEMS加工技術のノウハウも身につけた。平成24年度の後半からは、本研究の主目的である、超鏡面加工を施された市販の電子回路用シリコンウエハー上に、MEMS技術(ボッシュ加工対応Deep RIE)にて、微細な円孔を加工し、この一点のみから発生する制御された沸騰気泡システムでの沸騰実験を行った。なお、加熱面の熱供給は、シリコンウエハー製加熱面を銅薄膜製プリント基板に接着することで、前半と同じく銅薄膜への直接通電加熱により行った。温度計測は、前半と同じく銅薄膜の電気抵抗の温度依存性を利用して行った。申請設備備品である、赤外線カメラ(放射温度計)は、主に、加熱面上の有効加熱面積の算出のための較生実験に利用した。 その結果、(1)プリント基板製伝熱面の場合、核沸騰開始後の沸騰曲線の勾配は限界熱流束に至るまで,Rohsenowの核沸騰相関式のそれによく一致していること、また、限界熱流束はKutatelazeの式の値とほぼ同等となる。(2)シリコンウェハー製伝熱面の場合は、限界熱流束はKutatelazeの式の値よりも若干高い値となる、キャビティを付与しない場合、沸騰熱伝達機構は自然対流熱伝達に類似した、ことを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した「初年度であるため、市販の銅薄膜製プリント基板を使用した、簡易実験を、まず計画、実施していく」ことが達成され、一定の成果がまとまった。また、本研究の主目的である、『超鏡面加工を施された市販の電子回路用シリコンウエハー上に、MEMS技術(ボッシュ加工対応Deep RIE)にて、微細な円孔を加工し、この一点のみから発生する制御された沸騰気泡システムでの沸騰実験』も行うことができた。ただし、後者の実験に関しては、現状では、本研究の最大目的である『一点のみから発生する制御された沸騰気泡システムでの沸騰実験』までには至らなかった。この原因としては、微細なMEMS加工円孔が唯一有効なキャビティとはなっておらず、加熱面周囲から多くの沸騰気泡の発生が認められたと考えられる。今後、これに関する改善が求められる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度以降は、交付申請書に記載ように、圧力が限界熱流束に及ぼす影響を実験的に検討する。火力発電所や原子力発電所では、それらの熱効率を向上化するため、高圧状態での沸騰現象が発電の際に利用されている。例えば、沸騰水型原子炉(BWR)では70気圧での沸騰現象が、超臨界火力発電所では220気圧をも超える高い圧力の下で沸騰もどきの現象が利用されている。すなわち、汽水発電所(蒸気の熱を電気エネルギーに変換する方式:水力発電所以外の発電所すべて)では、高い安全性を検討するためには、圧力が限界熱流束に及ぼす影響を明らかにする必要がある。2年目は、この影響を実験的に検討する。 この実験装置に、基本的に大きな変更はない。1年目の実験システムに、加圧装置と減圧装置を追加して、圧力が限界熱流束に及ぼす影響を実験的に検討する。 ただし、初年度では、当初の目的であった『一点のみから発生する制御された沸騰気泡システムでの沸騰実験までには至らなかった』ので、今後、加熱面面積の増大やシリコンウエハーの裏面に金属薄膜をスパッタ加工をすることを通して、当初の目的を達成する予定である。また、クリーンブースを導入し、より理想化された実験条件を設定する予定である。 また、加圧装置は、液槽中水温制御用ヒータと凝縮器を利用する。すなわち、水温制御用ヒータの電圧と凝縮器への冷却水量をコントロールすることにより、液槽内の圧力を制御する。想定する圧力は、2気圧(ゲージ圧力で1気圧)である。液槽の耐圧性能を十分確かめた後、安全弁を設置した上で実験する。減圧装置も、基本的には、加圧装置(水温制御用ヒータと凝縮器)と同様であるが、補器装置として、水分除去機器も備える真空ポンプ【現有設備備品】を設置する。 最終年度(平成26年度)は、限界熱流束のモデル化に挑む予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
前述したように、初年度では、当初の目的である『一点のみから発生する制御された沸騰気泡システムでの沸騰実験までには至らなかった』。この対策として、加熱面面積の増大やシリコンウエハーの裏面に金属薄膜をスパッタ加工をすることが考えられる。しかしながら、大気中に浮遊する微細なゴミ(数マイクロメートルオーダーの塵や埃等)が原因であることも十分に考えられる。初年度の残額および次年度の研究経費の一部は、通常の塵や埃等の大きさ(寸法)を十分に調査した後、これらを排除可能なヘパ・フィルターを有するクリーンブースの導入に充てる予定である。
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