研究課題
本研究では,身体のサイクリックな運動である歩行運動に密接に関連しているとされるニューロンで構成された神経振動子を,アクティブ動吸振器の制御方法に取り入れることで,決められた関節の可動角度範囲内で身体や複雑な路面状況の変化に適切に対応する生物の歩行を模擬して動吸振器補助質量の可動範囲を考慮することができ,かつ,構造物のパラメータ変化に対してロバストな新しいアクティブ振動制御法を提案し,その基礎的な検証を理論及び数値解析と実験を通して行うことを目的としているが,これまでの研究で次の成果を得た.平成24年度は,構造物の応答に同期する神経振動子単体の特性を位相縮約理論を利用して明らかにすることで,振動子の入出力間に発生する位相差等を得たが,平成25年度においてはさらに構造物に付加質量を搭載し,その質量を位置制御する影響がシステム全体の同期特性にどのような影響を与えるのかについて調べた結果,単純なPD制御を利用した場合,比例制御ゲインを大きくするとシステムの同期範囲が狭くなっていくことがわかった.また,構造物の振動エネルギ消散を考慮した場合,動吸振器補助質量の動作は通常の位置決め制御とは異なって,緩やかに駆動しながら,構造物とは90度の位相差を持たせることが理想的となるため,それを狙った経路計画法を提案した.さらに,地盤入力に対する構造物の応答振幅に合わせて動吸振器補助質量の移動量を決定する必要があるため,振動子の出力から構造物の応答振幅を推定するための振幅位相マップを提案した.そして,神経振動子,振幅位相マップ,位置制御器から構成されるアクティブ動吸振器制御システムの提案を行い,同時に,DCモータ,ボールねじ,リニアスライダ,マイコン,加速度センサ及び変位センサによって構成される実験装置を製作し,インパルス応答実験によってその動作を確認した.
2: おおむね順調に進展している
複数のニューロンモデルを結合して神経振動子を構成し,さらに神経振動子を繋ぎ合わせて回路網を構成することによって作られるリズム発生器を構造物の制振に対してどのような機能を持たせて利用するべきであるのか,その基本的な指針はなかった.また,多くのニューロンを表すモデルが提案されており,どのモデルが構造物の制振に適しているのか分かっていなかった.これらを明らかにするためには,まず,構造物からの振動入力に対して採用した神経振動子が強制的に引き込まれる条件を明らかにすること,次に神経振動子からの出力によって動吸振器を駆動して構造物に影響を与える場合において,構造物と制御系の相互の引き込みの条件を明らかにし,さらに外部環境との大域的な同期が発生する条件を明らかにしておく必要があった.また,以前の研究で提案した制御方法では神経振動子からの出力に合わせて動作するPD制御器にはステップ状の目標値を与えていたため,目標を切り換える際に不連続値が存在し,スムーズな位置制御が実現できていなかった.さらに正弦波入力に対するシステム実現性の実験的検証に加え,インパルス及びランダム入力に対して振動制御性能やロバスト性について,他の制御手法と比較しながら実験的に検証していく必要があった.そこで今後の研究を発展させるために次の6つの課題の解決を本申請の研究開発期間で達成すべき目標としていた.1.構造物と神経振動子の強制引き込みの評価,2.構造物に対する適切な神経振動子回路網の選択方法の確立,3.動吸振器の位置制御法の改善と実験的評価,4.構造物と制御系及び外部環境間における大域的相互引き込みの評価,5.インパルス及びランダム入力に対する制振システムの制御性能の検証,6.多自由度構造物への適用に関する基礎検討,である.現在,第6番目の項目を除く研究が完了もしくは進行中であることからおおむね順調であると言える.
平成26年度の研究推進方策として,1.ランダム入力に対する制振システムの制御性能の検証,2.多自由度構造物への適用に関する基礎検討,が挙げられる.これらは当初の研究計画に盛り込まれていた項目である.これらを実現する為には,次の課題を解決する必要がある.インパルス入力に対するシステムの検証を行った結果,補助質量の移動距離に応じて制振性能が変化していることがわかり,それを補償する機能を位置制御器に持たせる必要がある.これにはシステムのパワーフローを観察し,補助質量の移動方向を切り換える適切なタイミングを明らかにしなければならない.また,振動子への入出力間において位相差が発生することから提案した振幅位相マップ上において位相差を無くす補償器についても構成する必要がある.現在,利用している回路網はシンプルなものであるが,各々の自然振動数に差を与えた回路網同士を適切な重みを与えて結合することによってこうした補償を行えるシステムを構築していく.また,多自由度系に適用するために各固有振動数に合わせた振動子を用意し,各振動数毎に振幅低減を目指したシステムを並列で動作させるシステムを構築する必要がある.現在,振動子を利用して振動モード解析を行う手法についても研究を行っており,この手法を利用して振動子の並列化を行う予定である.さらに,自然振動数の異なる振動子同士の出力を掛け合わせることで振動数を変調させることが可能であることがわかってきた.この手法を減衰係数励振と合わせて利用すれば地震の高い振動数成分を変調して低い振動数成分に変化させることが可能であることからこれまでに無い新しいセミアクティブ制御システムを構成することができる.申請時では平成27年から行う予定であったセミアクティブ制御システムの適用を前倒しで今年度からその基礎検討を始める.
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Proc. SPIE 9061, Sensors and Smart Structures Technologies for Civil, Mechanical, and Aerospace Systems 2014, 90613M (8 March 2014)
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