研究課題/領域番号 |
24560264
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
井上 卓見 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40274485)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 機械力学・制御 / 超音波 / 診断技術 |
研究概要 |
ヒートシールは,表層-基材-接着層の3層からなるシール材を2枚用い,互いの接着層を重ねて加圧,加熱して接着層を溶融し密閉する.各層の厚さはミクロンオーダーであり薄膜の多層構造である.このような対象に超音波を投射した場合,各層で反射した波動が多重に干渉・重畳して,各反射波の振幅がどのように変化したか全くわからず有効なシール強度の評価ができない.本研究では,ヒートシールに投射・反射した超音波パルスの瞬間的な振動数(瞬時振動数)に着目してシール強度を評価する手法を開発している.平成24年度は以下の知見を得た. 1.加熱温度と加圧時間をコントロールしてシール強度を意図的に変化させたヒートシールサンプルを作成し,提案した手法を適用した.シール強度の変化に対し瞬時振動数が一定のパターンで変化し,シール強度を評価できることを見出した. 2.ガウス関数を用いた解析的な超音波パルス波形を用い,波動が干渉・重畳する単純な二層間の反射について,瞬時振動数の変化を解析的に考察した.瞬時振動数が一定のパターンで変化することを示し,波動が干渉・重畳する波形でも,層間の反射の違いが瞬時振動数によって評価できることを示した. 3.実際のヒートシールの多層構造について,数値シミュレーションにより超音波パルスの多重反射を求めた.シール強度はシール境界における超音波パルスの反射率・透過率の変化で模擬した.多重反射した超音波パルスの瞬時振動数は実験と同様に変化し,シール強度と瞬時振動数との関係を理論的に裏付けた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の個別目標は,以下の3つから成っている. 1.シール強度を意図的に変化させたヒートシールサンプルを作成し,これに対して提案した手法を適用し,瞬時振動数からシール強度が実際に評価できるかを確認すること.2.瞬時振動数とシール強度との関係を理論的に説明すること.3.超音波の基本振動数により瞬時振動数の感度が変化するか,また,最も感度のよい基本振動数が存在するかについて調査すること. これらの中で,最初の2つの個別目標は達成されており,おおむね順調に進展していると評価する.
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今後の研究の推進方策 |
まずは平成24年度の研究結果の成果発表を行う. 簡易理論では,超音波が接着層を通過する時間と超音波の基本周期がある決まった関係にあるとき感度良く瞬時振動数が変化することが示される.実験においても超音波の基本周期によって瞬時振動数の変化度合いが異なるかどうか,最適な基本周期が存在するか確認する.そのために,基本周期の異なるいくつかの超音波探触子を購入する. ヒートシールの接着不良には,接着境界の不良だけでなく基材の微少な損傷などもある.接着層だけでなく,ねらった層に最も感度のよい超音波基本振動数を選択し精度良く検査できるか調査する.このように,一般的な薄膜多層構造物に対して,指定された場所をピンポイントで精度良く検査できる技術として提案する手法を確立する. 以上について,得られた結果を取りまとめ最終的な成果発表を行う.
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次年度の研究費の使用計画 |
購入した超音波パルサレシーバは,当初購入予定価格が287万円であったが,実際には252万円で購入できた.このため,ほぼ差額分に相当する34.4万円を次年度以降に繰り越しできた.この予算を有効に利用して,国際会議をはじめ現時点までの実績の成果発表を積極的に行っていきたい.次年度の成果発表として国際会議1回,国内会議3回程度を予定している. また,超音波パルスの振動数の影響を調査するため,基本振動数の異なるいくつかの超音波探触子を購入する.
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