研究課題
基盤研究(C)
本年度は主に水力学的骨格として利用するための柔軟な袋状構造の耐圧向上を行い、アクチュエータの駆動力強化を図った。実際にウレタンゴムシートを溶着して作成した袋状構造の外皮をナイロン繊維で強化した柔軟袋状構造を作成し、これを同一駆動軸に複数利用した可変出力型能動関節機構の試作も行った。この能動関節機構は、要求出力に応じて利用する袋状構造を選択することで出力を可変としている。この関節機構の駆動に用いた袋状構造は以下の二種類である。ひとつは中心軸を共有した直径の異なる円柱状の袋状構造をロシアのマトリョーシュカ人形のように多層に配置した多層型袋状構造である。これは円柱状の袋状構造の発生する折曲トルクがその直径に依存することを利用したもので、直径が小さく体積の小さい内側の袋状構造は位置決め用途に高速、小トルクを発生し、直径が大きく体積の大きい袋状構造は大出力用として低速、大トルクを発生する。もうひとつは長方形型の袋状構造を屏風のように何回も折り曲げた屏風型袋状構造である。これは袋状構造の発生するトルクが折れ曲がり部分の折れ曲がり角度に依存することを利用したもので、大きなトルクが発生する折れ曲がり角度が大きな領域を広く利用できるため、広い動作範囲で大出力が得られるという特徴がある。この袋状構造は直線状に伸びる方向に力を発揮するため、リニアアクチュエータとして利用する。能動関節に用いる場合は関節回転軸から近い距離に体積の小さいものを配置して位置決め用途に使用し、回転軸から遠い距離に体積の大きい袋状構造を配置して大出力用途に使用する。その他組み立て分解が容易な分岐管路や、大流量が確保できる機械式の多方向分岐弁の試作を行った。これらは流体を加減圧する袋状構造の制御に必須な技術である。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度の研究目的である柔軟な袋状構造の強化および、試作した袋状構造の出力性能の検証の一環として、新しい可変出力型能動関節機構を提案することができた。作成した袋状構造は当初繊毛アクチュエータとして利用する予定であったが、多重構造型や屏風型と言った新しい形態の袋状構造を提案することによって、水力学的骨格の応用範囲が広がり、多様な用途への利用が期待できるようになった。これは当初交付申請書に記載した研究の目的以上の成果と考えられ、水力学的骨格を繊毛アクチュエータに限らず、幅広い用途への応用を進めていく研究方針も検討するべきだと思われる。袋状構造に圧力流体を加減圧するためには分岐している管路が必要となるが、市販の分岐管路は体積が大きく、本研究の要求を満たさないものがほとんどである。そこで本研究では電子回路基板に用いる立方体形状のスペーサを利用し、分解組み立てが容易な小型の多方向分岐管路を作成した。また、市販の小型電磁弁は体積に対して流量が小さいものが多く、これも本研究の要求にそぐわないことが多い。そこで本研究では小型で大流量を確保できる機械式の多方向分岐弁を作成することでこの問題に対応した。
今後は繊毛アクチュエータも含めた水力学的骨格による柔軟なアクチュエータを利用した機構の研究を行っていく。柔軟機構は対地適応性が高いだけでなく、周辺環境を傷つけにくいという特性があり、これは人間と機械が共存する空間において大変重要な性質である。したがってこのような柔軟機構は介護用の抱き起し機構や、医療用の検査機器などへの応用も期待される。今年度の収支状況報告書に記載した3Dプリンタは、短時間で容易に複雑な立体形状を成形できるため、研究実績の概要や現在までの達成度に記した多方向分岐管路や多方向分岐弁の試作に大変有用であり、今後も使用していく予定である。
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Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturing
巻: Vol. 6, No. 7 ページ: pp. 1107-1120
http://www.mech.titech.ac.jp/~inouhp/study_eng.html