研究課題/領域番号 |
24560299
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研究機関 | 公立はこだて未来大学 |
研究代表者 |
三上 貞芳 公立はこだて未来大学, システム情報科学部, 教授 (50229655)
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研究分担者 |
兵頭 和幸 福岡工業大学, 情報工学部, 助教 (90550517)
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キーワード | 受動歩行 / 歩行解析 / 歩行ロボット / 靴 |
研究概要 |
H25年度は,(A)理論面の進展として,安定化が実現できる理論的な根拠を見出すこと,および(B)実現技術の進展として,人に適用する靴底の具体設計を進めることを目標として,以下の成果を得た. 1. 理論面での成果:靴底に隆起を持たせることは足首角度を特定の角度で固定する効果と等価であり,着地時の足首角度の固定は,股関節の抑制と同様に,歩行の初期値を強制的にリセットすることと等価であることがわかった.これにより理想条件での安定化効果の理論根拠が明らかになった.股関節の角度抑制の場合は,歩幅が急激に広がり,股関節が早い時期に制限され,ひざが折れ曲がる状態のまま上体が倒れこむ場合に,着地姿勢が初期状態に回復しない状況がありえる.しかし足首抑制ではそのようなことは起きえず,股関節に比べるとより安定性を確保できる姿勢が大きいことがわかった.ただしこれは足底が無限長など,足首の角度が完全に抑制できた理想状態であり,有限長の足底である場合は角度の抑制効果は十分ではない.この点についての解析が次年度の研究として残されている. 2. 実現面での成果:実験を通じて人用の靴底へ適した抑制形状を,薄板ゴムの積層により連続的な隆起を持たせる方法を見出した.試作した靴底形状によりトレッドミル上での歩行実験を行い,筋電計測により主として歩行安定をつかさどる筋肉への負担軽減効果を見出すことができた. 3. 理論実験面での成果:同様な手法として靴の中敷き部分に傾斜を設けることで人体の重心を内側等に傾け,外側・前方への過剰な倒れこみを防止する方法が知られているが,本研究の靴底に連続的に傾斜を設ける方法は,前者のように常に重心を傾けるのではなく,床と靴の接触角に応じて重心を戻す効果が増えることに相当し,安定した時には脚に不自然な力を働かせない効果があることが判明し,優位性を見出すことができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H24年度は,靴底へ転倒抑制を目的とした隆起(靴底抑制形状)を導入することによる人間及び受動歩行ロボットの歩行安定化について, (A)理論面において,安定化の効果と抑制形状の関係を与える基礎となる理論モデルを見出し,(B)実現技術においては,靴底抑制を導入した膝付き受動歩行機により,歩行ロボットにおける安定化効果の確認という成果を得た. これを踏まえてH25年度は,1. 理論面の進展として,安定化が実現できる根拠を,シミュレーションによる実験的な根拠ではなく,理論的な根拠として導出することを目指し,2. 実現技術の進展として,人に適用する靴底の具体設計を進めることを目指した. 1. については,靴底抑制が着地時の足首角度を固定する効果を与えることを見出し,これが,安定化効果が理論的に示されている股関節角度制限と同様に,歩行終了時に歩行開始時の初期姿勢に強制的に戻す効果を与えることを見出した.これにより,受動歩行における靴底抑制の安定化理論が明らかになり,目的は達したものと考える.加えて股関節の制限だけでは転倒につながるような,歩幅が大きく増えるような状況においても,足首角度抑制は初期姿勢へ回復させる効果を維持できることがさらに明らかになった. 2. については,具体的な底面形状を薄板ゴムにより構成する方法を開発し,さらに筋電計により歩行安定性にかかわる筋肉への負荷低減が若干認められることを明らかにでき,目的は十分達したものと考えている.加えて関連研究で,中敷き部に同様な傾斜を持たせて重心位置を常時内側等に制限する歩行安定化靴が提案されていることがわかったが,本研究の靴底での抑制の場合,標準姿勢からのずれに応じて補正力を発生するため,安定な歩行状況では不自然な力を脚に与えない効果があることもわかった. 以上より,今期の成果は当初の目的を十分達しているものと自己判断している.
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今後の研究の推進方策 |
今年度の成果により,最終年度では当初の目的通り,靴底の抑制形状の設計式を確定させ,人の歩行安定化の検証を行い,研究を完成させることを目指したい. 具体的には,今年度新たにわかった足首角度抑制のモデルを用い,H24で方針を得た靴底曲線の導出方法をもとに,具体的な設計理論を明らかにしたい.これには足首角度抑制の効果と足裏抑制ポイントとの関係について,H24でのシミュレーションと同様な方法で安定性の定量的な解析を行うことで最終結果を明らかにしたいと考えている. 人の歩行安定化への効果の解析については,新たな共有設備としてモーションキャプチャシステムと連動する床反力計および筋負荷シミュレーションソフトウエアが利用可能になったため(H26年度より函館高専に設置),抑制形状靴底の効果をより正確に分析できる見込みが立った.特に下肢へ不自然な力がかからないかについて当初の予定以上に解析できる見込みが立っている.研究の完成度を高めるために医療現場の研究者との連携先を探すことについても継続して進めてゆきたい. 理想状態での安定化の理論が大筋で明らかになったため,当初の予定通り,ロボットへの抑制足底形状の適用の可能性について理論・具体的検討ができる見込みが立っている.具体的には受動歩行ロボットの安定化効果について, H25年度までに,膝付き受動歩行機において,足裏長を超える歩幅による数十秒の継続歩行が実現できることを示したが,先の設計論を利用した適切な抑制形状を与えて,安定連続歩行がどの程度可能であるかを明らかにしてゆきたい.可能ならば同様にZMP規範制御など通常のモータ駆動される動歩行2足ロボットに対して,この足底形状がより安定化を与えられえるかについて理論面から検討を進めたい.
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次年度の研究費の使用計画 |
現在年度をまたいで靴底形状の作成を継続中であるため,その予定される部材の購入費が年度をまたいで必要になったため,11,579円と小額であるが,繰り越すこととした. 繰越額は,本年度の予算と合わせ,靴底形状の作成部材の購入費用として利用する.
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