船舶やおきあがりこぼしなどは,外乱に対して底形状により発生する復元力により自然に安定する性質を有している.本研究ではこの原理を2足歩行ロボットに応用し,歩行安定化を足底形状によって実現させることを目指した.これにより外部動力を用いずに2足歩行ロボットの歩行の安定を改善する新しい手法が明らかになり,その成果を用いて人の歩行を安定化させる靴底形状を開発することができた.具体的には以下の成果を得た. (1)理論面:2足歩行ロボットの足底に,ある特定の角度に近づいた際に床面に触れて反力を形成するような延長部(抑制足形状)を設けることで歩行安定化が実現できることを,受動歩行の場合において明らかにした.これは無限長の理想状態で,足首を特定の角度で固定する効果と等価であることを明らかにした.この効果は股関節の抑制と同様に,脚振出し時の角度・角速度を強制的に初期化する安定化原理と等価であり,ひざ付き2足歩行においては,股関節抑制で転倒する状況でも安定化効果を得られることがわかった.最終年度では,有限長の抑制足形状においても上記の効果がある程度確認できることがわかり,足底延長部による歩行安定化の可能性が明らかになった. (2)応用面:上記の理論成果をもとに,人の歩行・および不安定な場所での直立において,転倒に近づく不安定状況に近づいた際に,それを抑制する靴の設計を明らかにした.実験を通じて人用の靴底へ適した抑制形状を,薄板ゴムの積層により連続的な隆起を持たせる方法を見出した.これは中敷きへの傾斜を導入する場合に比較して,安定歩行時には負担をかけない点で優位であることが明らかになった.試作した靴底形状によりトレッドミル上での歩行実験を行い,筋電計測により主として歩行安定をつかさどる筋肉への負担軽減効果を見出すことができた.最終年度では,足首角を直接抑制する考え方に基づいた靴形状を発案できた.
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