研究課題/領域番号 |
24560314
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
原田 孝 近畿大学, 理工学部, 教授 (80434851)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ロボティクス / パラレルメカニズム / 非対称構造 / 冗長自由度 / モード変化 / 広可動範囲 |
研究概要 |
本研究は,ロボットや工作機械への応用が期待される3自由度並進運動を行うパラレルメカニズムに関して,従来の2倍以上の動作領域を有し,NC工作機械と同等の運動精度を有するシステムを開発することを目的とする.出力節である可動プレートを,リンクを介在して固定節であるベースプレート上に配置したリニアモータを用いて空間運動を行わせる.運動自由度よりも数の多いモータを用いた冗長駆動と,非対称に設計したリンク機構を用いることで動作中の特異姿勢を排除し,ベースに設けた中空部を介してメカニズムが反転して動作領域を拡張することが特徴である.本年度は目標としたメカニズムの設計試作を完了させた.個々の研究実績を以下にまとめる. 1. 機構解析と評価指標:スムーズな反転動作と高精度な位置精度を実現するための運動評価指標を確立し,並行して機構の誤差解析を実施した.冗長性や冗長特異性などの新たな運動評価指標を提案した.誤差伝播方程式を導出し,先ずは対称メカニズムに対する誤差解析を実施した.これらの一部を学会にて講演し研究論文1件にまとめた. 2. 非対称性の表現:機構の非対称性は機構解析にて導出したヤコビ行列の特異値と関連し,特異値はリンク長さや対偶位置の機械寸法比で表現されることを明らかにした.この寸法比を容易に変更できるように,リンク長さを固定,対偶位置を可変とすることを機構設計の方針とした. 3. 機構設計と試作:機構解析に基づいて非対称構造パラレルメカニズムの設計と機構部の試作と組立を完了させた.リンクは長さ250mmとし,軽量化のためにCFRPを採用した.高精度化のために平行リンクを用いた過拘束機構を設計した.広い動作範囲を有するために,対偶に対するリンクの相対角度変化は大きくなる.ターンバックル式のベアリング締結機構を考案し,部品点数が少なく,機械的干渉を排除したジョイント機構を考案した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は目標としていた非対称構造の分類・機構解析と実験装置の設計試作を完成し,平成25年度に計画していた制御装置の選定も前倒して実施した.成果発表の回数が少なかったために旅費に該当する研究費を翌年に繰り越してしまったが,テーマ全体としてはおおむね順調に進展している.以下,各サブテーマに対する達成度を評価する. 1. 機構解析と機構評価指標の確立:可操作度などのスカラー値を評価指標として用いることを計画していたが,スカラー値よりも情報量の多いヤコビ行列の特異値を解析のベースとし,これにより冗長駆動メカニズムに特化した特異性や冗長性などの新たな機構評価指標を導出できた.機構誤差に対するロバスト性の評価に対しては,誤差伝播行列の特異値を誤差に対する感度指標とし,対称メカニズムに対する誤差解析を実施した.サブテーマはおおむね順調に進展している. 2. 非対称性の表現と分類:非対称性の表現方法を定義し,研究のターゲットを絞って装置の設計試作を具体化することを計画していた.リンク長さや対偶位置などの機械寸法が同一とならない組合せを非対称の表現方法として研究を開始したが,非対称性は機構解析に用いるヤコビ行列の特異値と関連があり,ヤコビ行列の特異値はリンク長さや対偶位置の機械寸法比で表現されることがわかった.実験装置では,これら寸法比を容易に変更できるように,リンク長さを固定,対偶位置を可変となるように機械設計を行うことを方針とした.サブテーマはおおむね順調に進展している. 3. 機構設計と試作:機構解析に基づいて,非対称構造パラレルメカニズムの機構設計を実施して機構部の試作と組立を完了させた.平成25年度に実施予定であった制御装置の構築の一部である定格推力10Nのリニアモータおよび分解能0.1μmのエンコーダを前倒して選定した.サブテーマはおおむね順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
現在までの研究はおおむね順調に進展しており,今後も当初計画通りに研究を進めていく方針である. 平成25年度は,平成24年度に試作したパラレルメカニズムに対する制御装置を構成し,位置制御により広可動域の動作が実現できることを検証し,円運動精度を計測することを目標とする.以下の3つのサブテーマに分けて研究を進める.(a) 制御装置の構築:アクチュエータ部は,選定導入済であり,報告者の研究室で独自に開発した制御装置と接続し,制御装置を構築するための研究開発の時間と費用を削減する.(b) 広可動域動作の実現:特異姿勢回避および反転動作を実施する位置制御ソフトウエアを実装し,これらの動作が安定して実施できることを検証する.(c) 円運動動作の計測:工作機械の精度評価に広く用いられている円運動動作を実施する位置制御ソフトウエアを作成する.円運動試験装置を購入し,円運動試験を実施する. 平成26年度は,機構キャリブレーション技術を開発し,円運動誤差5μm以下の精度を実現させることを目標とする.以下の2つのサブテーマに分けて研究を進める.(a) 機構キャリブレーション:部品寸法誤差や組立誤差を機構キャリブレーションにより推定して,位置の高精度化を目指す.先行して研究中の冗長駆動平面3自由度パラレルメカニズムのセルフキャリブレーションを拡張して本研究に適用する.(b) 円運動誤差5μmの実現:キャリブレーション後に円運動試験を実施し,市販NC工作機械と同等である円運動誤差5μmを実現する.目標精度が実現できない時は,キャリブレーション方法を修正しすると共に,機械部品を改良する. これらの成果を日本機械学会などの国内の学会講演,および,ASME(米国機械学会)などにて国際学会講演を行うと共に,日本機械学会論文集などへ論文投稿を行う.また,申請者のホームページなどにて成果を広く開示する.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は,一部を前倒しで進めた実験装置の設計試作に注力したために学会講演を件数が少なく,平成24年度直接費1,800,000円の中で,主として旅費に該当する176,343円(約9.8%)を繰り越してしまった.繰り越し分は平成25年度の旅費その他へ充当し,国際学会を含む学会講演件数を多くする計画である.前期分として日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス部門講演会(平成25年5月:つくば),日本ロボット学会学術講演会(平成25年9月:東京),日本機械学会年次大会(平成25年9月:岡山)の講演を予定している.また,後期分として,IEEE ROBIO2013(平成25年12月:中国)などの国際学会への講演も予定し,論文投稿,ホームページなどと合わせて積極的な情報発信を実施する計画である.
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