研究課題/領域番号 |
24560326
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
飴井 賢治 富山大学, 大学院理工学研究部(工学), 講師 (50262499)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | LCフィルタレス / マルチレベルインバータ / 双方向スイッチ / 高効率 / 低ひずみ / 小形 |
研究概要 |
平成24年度は、複数のスイッチング素子に所望の制御信号を精度良く出力できる回路構成の検討と高効率化・小形化を考慮した主回路の設計・製作を行った。 まず制御回路構成の検討に関しては、本回路が16個のスイッチング素子を用いた回路であることから、制御回路をディスクリートで構成すると膨大なボリュームになり、さらに信号間の遅延やズレによって生じる微少なパルスが電圧ひずみの原因になるため、アナログ回路で構築することは困難であると判断し、マイコンを用いた同期型ディジタル回路で構成することを試みた。タイマー割り込みで基本時間を作り、カウンタ変数で割り込み回数をカウントして、予め設定したカウント値に達したらパルスを反転させる方法を用いた。また16個のスイッチング信号は、8ビットのI/Oポートを2ポート使用することによって、同時出力が可能になった。この方法により、スイッチング時間設定の容易さと正確な制御が実現された。 次に主回路の高効率化・小形化の検討に関しては、用途に合うスイッチング素子を選択したのちシミュレーションによって特性比較と損失計算を行った。本回路の場合、単相100Vの電圧を出力することを想定して回路を設計しているため、耐圧のバリエーションの豊富なMOSFETの方がIGBTよりも低損失となることが確認された。また小形化に関する検討では、本回路が双方向スイッチの構成を複数用いているため、素子を2の倍数で使用することが多いことから、1枚の基板に4素子を搭載するユニット構成を採用した。これにより電圧レベル数を増減させる際にもユニット単位で変更することができ、従来の1/3程度まで小形化が実現された。 これらの設計思想に基づいて基本単位である3レベルの単相ハーフブリッジ回路を作製し実験を行った。その結果、100W出力時の効率が99.2%であり、高効率化が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、LCフィルタを用いずに低ひずみ化を実現する高効率インバータ回路を構築することである。その目的を達成するためには、(1)高効率化と小形化を考慮した主回路構成、(2)複数のスイッチング素子を自由にかつ精度良く制御、(3)波形ひずみを低減できる最適スイッチング位相の導出が重要である。これらの課題を解決する方法を考案し、実験回路を作製して特性試験を行い、改善効果を検証することが本研究の具体的内容である。 平成24年度は、これらの課題の中で(1)高効率化と小形化を考慮した主回路構成と(2)複数のスイッチング素子の制御について検討した。どんな素子を使用すればよいか、どのような制御回路で構成すればよいのか、そして電圧レベル数の拡張にも十分に対応できるようにするにはどのように構成したらよいのかについて検討した。主回路の拡張性に関しては、回路基板をユニット化することで容易に拡張できる構成にした。また複数のスイッチング素子の制御に関しては、制御信号をI/Oポートから出力することで、遅延無く正確に出力でき、拡張性にも対応できることが確認された。 検討した内容を評価するために提案する方式のマルチレベルインバータの基本単位である単相3レベルハーフブリッジインバータ回路を試作し、動作特性を観測した。その結果、良好な波形制御性と高い効率が確認された。主回路基板をユニット構成にすること、制御信号をI/Oポートから一括出力することによって、拡張性が実現された。これらのことから、提案する13レベルインバータ回路を構築する上で基礎となる貴重な設計データが得られ、当初の目標を十分に達成できたといえる。平成25年度は、得られたデータに基づいて標準化されたユニット構成の主回路基板を複数枚作製し、制御信号送出のためのI/Oポートを増やして13レベルまで拡張して、全回路の動作特性を検証する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度以降の研究計画として、(1)電圧レベル数の拡張、(2)波形ひずみを最小化するスイッチング位相の最適化を予定している。前者の電圧レベル数の拡張に関しては、前年度に完了した基本回路の試作により概ね良好な特性が確認されているので、これを基に同様に回路基板を作製し、13レベルまで拡張する。拡張に伴うソフトウエアの変更や回路の調整を行い、動作試験を行う。電圧レベル数を拡張してもソフトウエア処理に影響が出ないような回路構成を検討してきたが、処理時間やパルス幅の微調整の粗さの問題等が生じたときには、高い処理能力を持つマイコンへの置き換えも検討する。また、スイッチの切り替え時に生じるサージ電圧に関しても注視する必要がある。これに関しては、ソフトウエアによるスイッチングタイミングと駆動回路の立ち上がり時間の調整で回避を図る。 後者の波形ひずみ最小化のためのスイッチング位相の最適化に関しては、直列に接続された個々の直流電源の電圧が均一である場合と、可変である場合について検討する。まず電圧が均一の条件の場合については、スイッチング位相のみによって波形ひずみの改善を検討する。予めPCで計算を行い、その結果を制御装置へ書き込んで実験によって検証する。その際に、位相の僅かな調整ズレが電圧ひずみに影響を与える場合があり、適度な処理能力の制御装置の選択とソフトウエアの作成について注意する。次に直流電圧が可変の場合について考える。これは、スイッチング位相の調整に加え、個々の直流電源(新規)の電圧値の調整を行い、電圧ひずみの低減を図る方法である。電圧の調整には、6台の直流電圧とそれらを非干渉に制御する専用コントローラ(新規)を用いる。これにより、スイッチング位相のみでなく個々の直流電圧を制御できるようになり、電圧ひずみをさらに低減できると期待している。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、電圧レベル数を13レベルまで拡張するための主回路基板の作製と、電圧ひずみを最小化するスイッチング位相の最適化について検討する。前者に関しては、必要な部品を前年度に購入済みであるので、それらを用いてすでに設計済みの回路構成に基づき作製する。それらが完成した後に、Matlab(既存)を用いてスイッチング位相の最適化について検討する。入力の直流電圧を均一に制御した場合(平成25年度)と、可変にした場合(平成26年度)について検討するため、直流可変電源(菊水電子PWR400L、@128千円)を6台購入する。またこれらを制御するための電源コントローラ(菊水電子PIA4850、25千円)を購入して、PCによって非干渉に制御できるようにする。特性試験を行う際には、入出力効率や電圧ひずみを正確に測定する必要があり、ディジタルパワーメータ(日置電機 PW3337、500千円)を用いて行う。これらの装置を使用することで、動作特性試験を正確にかつ迅速に行うことができるようになり、研究を円滑に進捗させることができるようになる。
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