研究課題/領域番号 |
24560326
|
研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
飴井 賢治 富山大学, 大学院理工学研究部(工学), 講師 (50262499)
|
キーワード | マルチレベルインバータ / 双方向スイッチ / LCフィルタレス / 高効率 / 低歪み / 小形 / マイクロプロセッサ制御 |
研究概要 |
平成25年度は、前年度に高効率化と小形化に主眼を置いて設計を行った主回路と、複数のSW素子をマイクロプロセッサで制御する回路を作製して特性を評価した。まず主回路構成については、高効率化を図るために使用するスイッチング素子の見直しを行った。MOS-FETのオン抵抗は高耐圧になるほど増加する傾向があり、出力電圧値と素子耐圧を考慮してルネサスのRJK2511DPK(250V、65A、28mΩ)を選択した。また小形化に関しては、1枚の基板に4つのSW素子とその駆動回路を配置し、4素子単位で増設できるユニット構成とした。これにより電圧レベルの増減に対応でき、また使用素子の違いによる動作特性への影響を比較できるようになった。さらに、このユニット基板のパターンを発生させて専用基板を作製し、回路の製作行程の短縮を図った。 制御回路に関しては、汎用的なマイクロプロセッサによるディジタル制御の可能性を検討した。それは、周期が16μsの基準クロックでタイマー割り込みを発生させ、予めプリセットされたカウンタをダウンカウントさせてボローが発生したときにゲート信号を更新する方法である。本方式の動作特性を確認するために、ルネサスのH8/3052マイコンを用いて制御回路を作製した。基準クロックの生成やダウンカウント、データ保持はマイコン内部で行い、ゲート信号の出力はI/Oポートを用いて行った。 これらの装置を用いて動作特性試験を行った。直流電源として、テクシオ(株)のPSF-400L2(新規)を3台用いた。出力電圧100V、電力700Wの条件で実験を行ったところ変換効率は97.0%、電圧歪み率は3.47%であった。なお、この結果を学会発表し、電気学会より「ヤングエンジニアポスターコンペティション」、IEEE IASより「Young Engineer Competition Award」を受賞した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的は、LCフィルタを用いずに低ひずみ化を実現する高効率インバータ回路を構築することである。その目的を達成するためには、(1)高効率化と小形化を考慮した主回路構成、(2)複数のスイッチング素子を自由にかつ精度良く制御、(3)波形ひずみを低減できる最適スイッチング位相の導出が重要である。これらの課題を解決するための方法を考案し、実験回路を作製して特性試験を行い、改善効果を検証することが本研究の具体的内容である。 平成24年度から25年度にかけては、これらの課題の中で(1)高効率化と小形化を考慮した主回路の構成と(2)複数のスイッチング素子の制御について検討した。素子選定、複数素子のディジタル制御についてシミュレーションおよび実験で検証した。実験によると、出力電力700W時における変換効率が97.0%にとどまり、予想を下回る結果となった。提案する回路は、あらゆる電圧レベルにおいても通流素子数が2素子+1ダイオードのみであり、従来のどの回路と比較しても少ない素子数で動作させることができる唯一の回路である。効率が低下した原因を早急に追及し、新たな方策を検討する必要がある。またその他に、電圧レベル切り替え時に瞬間的な電圧低下が不規則に発生することが確認された。これについては、効率だけではなく波形歪みにも影響を及ぼす恐れがあるため、確実に対策を施す必要がある。 このようにして、実際に装置を作製して実験を行ったことで、素子の特性や制御回路の遅延などの影響で予期せぬ状況が明らかになった。26年度は、これらの問題の解決策を検討すると共に、当初の予定である最適スイッチング位相の導出も検討したいと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
平成25年度に行った実験で明らかになった予期せぬ効率の低下と電圧レベル切り替え時の電圧変動について、その原因を追及し、対策案を検討する。まずは、シミュレーションを実験装置の特性に近づけ、実験装置で起こる現象の把握に努める。効率に関しては、スイッチング素子やダイオードから発生する損失の低減を考慮し、SiC素子やショットキーバリアダイオードなど低損失な素子を使用して効果を検証する。また電圧レベル切り替え時の電圧変動に関しては、制御用ソフトウエアおよびゲート信号出力回路の確認、さらにはCPUの処理能力の評価を行う。現状のソフトウエアでは、電圧レベルの切り替え時に必ずデッドタイムを挿入しており、さらに次の電圧レベルに移行する前に還流ループを形成しているため、通常、この問題は起こり得ないはずである。僅かなプロパゲーションディレイがハザードを発生しているのかもしれない。その原因を追及し、対策を講じていく。またソフトウエアの改良を行う際に、平成26年度の課題である最適スイッチングについても並行して検討する。双方の問題は1つの原因によって発生している可能性もあり、ソフトウエアの構築法が解決のカギを握ると予想する。最適スイッチングに関しては、Matlabを用いて予め計算を行い、その結果から得られた最適パルスの情報をマイコンに取り入れて実験を行う。Matlabと実験装置の間にも特性の違いが生じると考えられ、双方の摺り合わせが必要であると考える。
|