研究課題/領域番号 |
24560327
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
矢野 浩司 山梨大学, 医学工学総合研究部, 教授 (90252014)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | パワーエレクトロニクス / パワーデバイス / ワイドバンドギャップ半導体 / SiC |
研究概要 |
試作したSiC-BGSITサンプル素子に対して、ターンオン動作のためのゲート駆動電圧を、従来の2.5Vから、12.5Vまで変化させ静特性およびスイッチング特性を測定すると共に、その動作原理をシミュレーションにより解明した。その結果、ゲート駆動電圧を増加させてもオン抵抗は殆ど減少しないことがわかった。シミュレーションによればゲートからの小数キャリアは主としてゲート電極下のドリフト領域に注入されており、主電流の経路に効果的に注入されていないことがわかった。一方スイッチング動作に関しては、ゲート駆動電圧の増加により、劇的にターンオン時間が減少し、12.5Vの駆動電圧の場合のターンオン損失を、2.5Vのそれに比べ6分の1以下に減少できることが測定により確認できた。しかし、駆動電圧の増加はゲート端子の定常電流を増加させることも明らかになった。駆動電圧が12.5vでは0.7A程度の定常的なゲート電流が流れる。これは入力損失を増加させるため好ましくない。結果として、ゲート定常電流を0.1A以下に抑え、ターンオン損失を減少させるためには,ゲートの駆動電圧は5V程度にすべきであるという結論に至った。 またスイッチング動作時の素子動作をデバイスシミュレーションで解析した結果、導通チャネル部が不均一動作をしていることがわかった。この原因はこのデバイス構造特有の埋め込みゲート部の寄生抵抗および寄生容量により、ゲート端子から離れたチャネル部の動作に遅延が発生するためである。この遅延はゲート駆動電圧の増加により減少するため、素子の不均一動作を緩和する為にも、ゲート駆動電圧の増加は有効であると見なされる。 上記成果は、SiCパワーデバイスの更なる高速、低損失化の為の重要な知見であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の目標である「弱い小数キャリア注入モードでの特性の測定」に関して、1200V定格のサンプル素子においてゲート駆動電圧を、従来の小数キャリア注入を行わない電圧から強い注入を行う場合までについて、オン抵抗およびスイッチング特性を評価し、対象デバイスの基本特性をほぼ把握することが出来た。特にスイッチング性能においては、弱い注入を行うことでゲート入力電流を抑えながらスイッチング損失を低減できることがわかり、最適駆動条件を導出できた。これは大きな成果であるといえる。一方でキャリア注入動作を行ったにもかかわらずオン抵抗が減少しないことがわかり、当初の予測とは反する結果となった。この点を十分に解明し、素子のトータル性能を向上させることが今後の課題である。本成果はSiCおよび関連ワイドバンドギャップ半導体研究会にて発表している。 また、H24年度の研究では、基本的なゲート駆動回路を用いて試作素子を評価したが、次年度以降はスピードアップコンデンサなどを組み込んだ高速駆動回路を用い、素子の限界性能を測定する予定である。 これとは別に、3300V定格の素子の設計もシミュレーションで実施し、その特性をおおよそ予測することが出来ている。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の目標は概ね達成できたため、今後は研究計画に従い着実に研究を進める。すなわち、シミュレーションによる素子のキャリア注入効果を確認することである。前年度の成果より、キャリア注入動作がオン抵抗低減のためには効果的ではなかったことが測定で明らかになったため、その原因をシミュレーションで突き止め、オン抵抗を低減するための構造を新たに検討する。一つの方法として、埋め込みゲートの長さを減少することが考えられるため、まずこの観点から検討する。 一方で、電圧定格を3300Vまで拡大した場合の設計指針についても検討する。具体的にはチャネル部、ドリフト層部などの主要素子構造だけでなく、素子終端部の電界を緩和する構造についても、シミュレーションにより設計する。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は、基本的なゲート駆動回路を用いて、サンプル素子の高速、低損失性能を評価したため、当初購入予定であったオシロスコープは購入せず、現有のテスターにて評価を行った。そのためこれに関連する経費は翌年分として請求している。次年度はより高速駆動が可能な評価系を用い、温度特性を含めた素子特性を測定する予定であり、そのための評価装置を購入する予定である。 また、「現在までの達成度」で述べたように、現時点で少数キャリア注入を効果的に利用し、損失を顕著に低減するには至っておらず、その一因として、電極部の接触抵抗が大きい可能性がある。よってコンタクト材料を工夫し、コンタクト抵抗を低減することも検討している。この予備実験の為の装置の購入も予定している。 更にパワーデバイスの先端の研究開発動向を調査するために、パワーデバイス関連の国際会議(ISPSD2013およびECSCRM13、いずれも国内開催)や電気学会に出席する為に旅費として使用する。さらに、一定の成果が出た場合の論文投稿の為の掲載料として使用する。
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