研究課題/領域番号 |
24560334
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
金 錫範 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (00287963)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 磁場on/off / 磁場増幅 / 磁場制御 |
研究概要 |
高温超電導バルク体は、高い磁場を捕捉する能力を有していると同時に、磁場の形状を記憶させることも可能であり、また、超電導本来の特性である完全反磁性特性も持っている優れた材料である。そこで、本研究では、高温超電導バルク体が有する様々な利点を生かしてDDS用磁気ナノ粒子やMEMS制御などの医学分野に応用させるために磁場のon/offを含む自由度の高い磁場制御方法を探索している。一般的にディスク型の超電導バルク体を用いた場合、完全反磁性特性により磁場を遮蔽することはできるものの、磁場のon/offを含む制御は出来ない。そこで、リング形状の高温超電導バルク体にスリットを入れることで磁場のon/off制御が可能になると考え、電磁場数値解析と実験による検討を行った。スリット形状の高温超電導体の内径やスリットの角度の依存性について電磁場数値解析による検討を行った結果、内径とスリットの角度を最適化することが出来た。また、より効果的に磁場制御を行うために、スリットの形状についても検討した。 本年度に行った研究により、スリット部では印加磁場より高い磁場を発生させることが確認でき、これは予想しなかった素晴らしい結果であり、磁場のon/off制御以外に磁場の増幅が可能であることが示された。磁場の増幅率は、今回行った数値解析と実験では約160%であり、さらに増幅できる可能性があると考えている。 超電導バルク体の捕捉磁場を制御する方法として、磁場中冷却方法によって初期捕捉状態のバルク体に、改めて磁場を印加する再磁場印加方法を提案して電磁場数値解析と実験を通して、その可能性と有効性について実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、下記の大きく三つの研究目的を果たすための研究を行っている。 (1)直流磁場のon/off制御方法 (2)自由度の高い磁場形状を捕捉させる方法 (3)磁場の空間均一度を向上させる方法 直流磁場のon/off制御方法については、リング形状の高温超電導バルク体にスリットを設けることで磁場のon/off制御が可能となることを明らかにした。さらに、その研究過程で、磁場のon/offのみならず磁場強度も増幅できることが分かったので、この結果は期待しなかった優れた成果であると考えている。従って、今後も磁場のon/off制御方法と共に磁場強度をさらに増幅できる方法について検討を行うつもりである。 (2)と(3)項目については、初期磁場捕捉プロセスで磁場が捕捉されたバルク体に改めて磁場を印加するプロセスを開発することで磁場の自由度と均一度両方を同時に得ることが可能であることを示した。従って、上記の研究成果は当初の計画よりかなり進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
DDSなどの磁気誘導に使われる磁場源は、主に永久磁石が用いられている。しかし、永久磁石の製造プロセスなどの発達によりNd系の永久磁石などの磁場強度は1T近く高くなったものの、その磁場強度は永久磁石の表面での磁場強度であり、高さ方向への磁場強度分布特性は電磁石などに比べて低い。従って、人体応用においては、皮膚表面から近いところの磁気誘導しかできないのが現状であり、人体の深いところまでの誘導は無理である。また、永久磁石の発生磁場分布は平面空間において非常に平らな分布を持っているので、血液の分岐点での制御は非常に難しくなる。しかしながら、永久磁石は、様々な形状で製作することが可能であり、コスト面でも電磁石や高温超電導バルク体などに比べて非常に安価である。従って、永久磁石からの発生磁場を増幅することが可能であれば、磁気ターゲティング用の磁場源として使うことが可能になると思われる。そこで、今後は、磁気ターゲティングシステムの磁場源として1 T以上の磁場強度を有する磁場源の開発を行う。また、DDSなどに使われる磁気ターゲティングシステムの高性能化を図るためには、幅の狭い磁場を作る必要があり、その磁場は高強度でありながら人体の深部まで届くように発生させることが望ましい。また、磁場のon/off機能も備える必要があるため、空間的に幅が狭く高強度な磁場分布が発生できる磁場制御方法について検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究を推進するためには、基本的には高磁場発生装置と冷却装置などが必要である。申請者は、長年超電導応用機器の開発研究を行っており、10 テスラ級超電導マグネットや4K級冷凍機などの大型装置やナノボルトメータをはじめとする計測システム機器の殆どは既に現有しているので大型装置の投入は必要ない。しかし、超電導マグネットと冷凍機装置を維持するためのメンテナンス費用が発生する。また、消耗品である高温超電導バルク体とバルク体の加工費用が今年度も発生する。そして、昨年と同様に本研究で得られた知見を国内と国際学会への研究発表を行うための旅費が必要となる。その他、実験に必要な電子部品などの消耗品が必要となる。
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