研究課題/領域番号 |
24560343
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 足利工業大学 |
研究代表者 |
横山 和哉 足利工業大学, 工学部, その他 (60313558)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 国際情報交換 |
研究概要 |
近年の資源・環境問題や医療分野で磁気の応用が検討されている。本研究は超伝導体をパルス磁化法により着磁して,冷凍機で冷却し続けることで疑似永久磁石として使用する超伝導バルク磁石の強磁場化について研究を行っている。これまでに,磁束の侵入を容易にするために「細孔を開けた超伝導体」を考案し,基礎的な実験を行ってきた。平成24年度は,パルス着磁中の磁束の挙動を把握するためのリアルタイム磁場測定システムを構築した。分解能が1μsのデータロガー(PA-S1000/8,P&Aテクノロジーズ)を導入して,バルク体表面の4か所に貼り付けた極低温用ホールセンサ(BHT-921,F.W.BELL)のホール電圧を読み取り,パソコンにデータを記録する。実験当初はノイズが多くデータ収集が困難であったが,シールドやアースなどの対策を施してノイズ除去に成功した。構築した測定システムを用いて,超伝導体の温度を20~60Kに変えて3~7テスラの印加磁場でパルス着磁を行った時の超伝導体各部の磁束の時間変化を測定した。この結果,細孔がある部分とない部分で顕著な違いがあることを明らかにした。 これらのデータについて,研究協力者である新潟大学の岡教授と意見交換を行い,その要因について議論した。また,本研究を進めるに当たり,ASC2012(応用超伝導会議,ポートランド・アメリカ,2012.10.7-12)や2012年度秋季超電導・低温工学会(いわて県民情報交流センター(アイーナ)(盛岡),2012.11.7-9)等に参加して他機関の情報収集を行った。特にASC2012では超伝導体に機械的加工を加えた時の影響についてケンブリッジ大学のM. Philippe氏と議論するなど有意義な意見交換ができた。さらに,これまでの成果を超電導・低温工学会(盛岡)やISS2012(国際超電導シンポジウム,東京),電気学会全国大会等で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,高温酸化物超伝導体を用いた小型超強力磁石の磁力の向上および産業応用を目的としている。本研究で用いる装置は超伝導体をパルス磁化法により着磁して,冷凍機で冷却し続けることで疑似永久磁石として使用する。パルス磁化法は装置が小型・安価で作業時間も短いため,産業応用には有利な磁化方法である。これまでに,超伝導体の着磁時における温度測定を行い着磁メカニズムを検証してきた。一方,近年の超伝導材料の大型化や高特性化に伴い磁化が難しくなる傾向にあり,実用化には磁化手法の容易さも重要な課題である。本申請ではこれまでに考案した「細孔を開けた超伝導体」を用いて,容易に磁化が可能で,かつ発生磁場を向上できる方法を実験により検討する。そこで,平成24年度は,細孔を開けた部分とそれ以外の部分におけるパルス着磁中の磁束の挙動をリアルタイムで測定するシステムを構築することを目標とした。超伝導体表面に極低温用ホールセンサを4個貼り付け,そのホール電圧を高分解能のデータロガーで読み取る。パソコンにデータロガーを接続して制御するとともに,データを取り込み保存する。実験当初はノイズが多く正確なデータを得ることができなかったが,様々なノイズ対策を施すことによりノイズのないデータを得ることができるようになった。そして,既存の超伝導体を用いて,20~60Kにおいて3~7Tのパルス磁場を印加する実験を行い,これまで測定できなかった磁束が侵入する1ms以下の詳細なデータを得ることに成功した。この結果,細孔のある部分とない部分の顕著な違いを明らかにすることができた。次年度はこの測定システムを用いて,新規の超伝導体で細孔による影響を調査することが可能となった。以上,当初予定したスケジュール通りに研究は進行している。
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今後の研究の推進方策 |
25年度は,新たに超伝導体を購入して細孔の大きさや個数について検討する。現在所有している細孔を開けた超伝導体は,結晶成長領域(GSR)の1か所にφ2 mmの細孔を4個直列に開けてハンダを充填している。これまでの研究でパルス磁化では比較的超伝導特性の低いGSRから磁束が侵入することが明らかになったため,GSR部に細孔を開けることが最適と考えたためである。細孔の大きさについては,77 Kの磁場中冷却着磁の磁束密度分布のデータにおいて細孔部分が歪んでいるため,φ2 mmでは大きすぎることが考えられる。また,細孔の個数を変えることも検討したい。超伝導体は新日本製鉄(株)から現在と同じφ60 mm×20 mmのGdBa2Cu3O7-x超伝導体を購入し,細孔の加工も同社に依頼する予定である。 実験は24年度に構築したリアルタイム磁場測定システムを活用して,超伝導体の温度を変えながら単一パルス磁場を印加し,各温度・各印加磁場における磁束の時間変化および着磁後の磁束密度分布を測定する。この時,超伝導体に細孔を開ける前の状態に測定を行い,更に超伝導体の細孔の数や大きさを変えながら同様の測定を行って,最適な細孔の大きさや個数を検討する。 研究にあたって,24年度と同様に研究協力者である新潟大学の岡教授と年3回程度の意見交換を行う。また,研究期間半期の成果をまとめるとともに他機関の研究の現状を調査するために,7月に開催予定のMT-23(磁石技術に関する国際会議,ボストン・アメリカ)に参加する。同会議もASCと同様に2年に一度開催される超伝導関係では最も大きな会議の一つであり,多くの研究成果が報告される。また,超電導・低温工学会やISS2013(国際超電導シンポジウム)にも参加して情報収集する予定である。さらに,25年度の研究成果を電気学会全国大会で発表する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は新規に超伝導体を購入し,細孔をあける前の特性から,細孔の大きさや数を変えた実験を行う予定である。そのため,超伝導バルク体(GdBa2Cu3O7-x,φ60×20,新日本製鐵株式會社)を購入予定である。また。パルス着磁実験では液体窒素を使用するため,100L単位での購入を予定している。24年度に約8万円の残金があるが,液体窒素の購入に充てる予定である。また,研究期間半期の成果をまとめるとともに他機関の研究の現状を調査するために,2013年度春季超電導・低温工学会(東京,2013.5.13-15)やMT-23(磁石技術に関する国際会議,ボストン・アメリカ,2013.7.14-19)等の学会参加のための旅費を予定している。
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