研究課題/領域番号 |
24560343
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研究機関 | 足利工業大学 |
研究代表者 |
横山 和哉 足利工業大学, 工学部, 准教授 (60313558)
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キーワード | 超伝導バルク磁石 / パルス着磁 / リアルタイム磁場測定システム / 磁石応用 / 産業応用 |
研究概要 |
先端医療や環境の分野で磁気の応用が注目されており,さらに現在問題となっている除染においても磁気分離を適用することが検討されている。本研究は超伝導バルク体を強力磁石として用いるための着磁に関する研究を行っている。近年の超伝導材料の特性向上により磁化された場合には強い磁場を発生できるものの,磁化の過程が難しいという問題がある。そこで,磁束の侵入を容易にするために,試料に機械的に細孔を加工して意図的に特性を劣化させ,その部分から磁束を侵入させる手法を考案した。平成24年度は高分解能データロガーを用いたリアルタイム磁場測定システムを構築し,既存の試料(直径2mmの細孔を4個加工したもの)を用いて単一パルス磁場を印加する実験を行った。その結果,磁束密度の時間応答において細孔部分の立ち上がりが早く,当初意図したとおり細孔部分から磁束が侵入することを確認した。さらに,高印加磁場で磁束フローによる磁束の減少が抑制されることを明らかにした。平成25年度は細孔の大きさの影響や細孔に充填したハンダによる冷却効果について実験により検証した。細孔が小さい場合は磁束の侵入し易さ及び磁束フロー抑制効果が小さくなる結果となったが,最終的な捕捉磁場は大きくなり,磁場侵入と捕捉磁場の関係に指標を見出すことができた。次に,試料からハンダを取り除いて同一条件で着磁実験を行った。その結果,磁束密度の時間変化および磁場分布とも顕著な違いが見られ,ハンダの冷却効果が大きいことが確認できた。上記の結果はMT-23(磁石技術に関する国際会議,ボストン・アメリカ,2013.7.14-19)やISS2013(国際超電導シンポジウム,東京,2013.11.18-20),2013年度秋季超電導・低温工学会(名古屋,2013.12.4-6)等で報告するとともに,研究結果について多くの研究者と議論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は超伝導バルク体をパルス磁化法により着磁して強力磁場を発生させ,それを産業応用することを目的としている。近年の試料の高特性化に伴い,磁気シールドが大きくなり,磁束を侵入させることが難しい問題がある。そこで,バルク体の一部に機械的に細孔を加工して,超伝導特性を意図的に劣化させて,細孔部分から選択的に磁束を侵入させる手法を考案した。平成24年度は試料表面の磁束密度の時間変化をリアルタイムで測定するシステムを構築し,温度および印加磁場の大きさを変えたパルス磁場印加実験を行ってきた。それらの結果,当初の意図したとおり低印加磁場で磁束が侵入し易くなるとともに,高印加磁場で磁束フローによる磁束の減少が抑制される現象を新たに確認した。平成25年度は細孔の大きさの影響や細孔に充填したハンダの冷却効果について検証し,①細孔が大きい場合,磁束が侵入し易くなるものの最終的な捕捉磁場が小さくなる。②細孔にハンダを充填することにより細孔近傍の冷却効果が向上し,パルス磁場印加の磁束フローが抑制される。つまり,ハンダがない場合は磁束フローが大きく,磁束密度が低下する等を明らかにした。これらの結果,現在4個ある細孔は多すぎること,細孔加工した場合はハンダを充填する必要があること等が明らかになり,細孔の数と大きさの最適化の検討に取り掛かっている。25年度後半は,新規購入した試料において,加工前に温度と印加磁場の大きさを変えたパルス着磁実験を行い,次に試料の外周近傍に1か所に厚みの半分だけ細孔を加工して,これまでと同一条件の実験を行った。その結果,細孔加工により若干磁束が侵入し易くなったものの,未加工の試料と大きな違いはないことを確認した。現在,細孔を貫通させてハンダを充填する追加工を実施しており,細孔の最適化を進めている段階にある。以上のことより,おおむね当初予定したスケジュール通り進行している。
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今後の研究の推進方策 |
26年度は現在進行している細孔の大きさおよび個数を最適化する実験を進める予定である。これまでに試料の外周近傍1か所に厚みの半分だけ細孔を加工して,従来と同一条件のパルス着磁実験を行った。その結果,低印加磁場で若干磁束が侵入し易くなったものの,未加工の試料と大きな違いはないことを確認した。そこで,現在は細孔を貫通させ,さらにハンダを充填する追加工を実施している。加工が完了次第,同一条件の実験を行い,これまでのデータと比較する。その結果を踏まえて,さらに細孔の個数を増やしたり,細孔を大きくしたりする等の検討が必要となることが考えられる。さらに,低印加磁場における磁束侵入のしやすさの向上と高印加磁場における磁束フローの抑制,さらに最終的な捕捉磁場の向上を満足する条件を求めることを目標とする。研究にあたって,25年度と同様に研究協力者である新潟大学の岡教授と年2回程度の意見交換を行う。また,研究成果をまとめるとともに研究をさらに発展させるため,8月に開催予定のASC2014(応用超伝導会議,アメリカ・シャロット)に参加する予定である。また,超電導・低温工学会や電気学会,ISS2014(国際超電導シンポジウム)にも参加して研究を発表するとともに情報交換を行う予定である。さらに,本年度は最終年度であり,研究成果を総括して報告書を作成する。
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度未使用分を失念しており,実験に使用する液体窒素も通常予算で購入していた。 本年度は実験回数が増える見込みであり,さらに超伝導バルク体の細孔の追加工も予定しており,液体窒素購入および試料加工費に使用する予定である。
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