研究課題/領域番号 |
24560347
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
加藤 正平 東洋大学, 理工学部, 教授 (80103571)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | サージ / コイル / 変圧器 / 数値電磁界解析 |
研究概要 |
コイルのサージ解析で見られる容量性のステップ応答に現れ回ファン上に減衰するスパイク電流発生の原因とその特性を明らかにすることを目的としている。今年度は、実験による研究と解析による研究を可能にする両システムの準備を進め、予備的な実験と解析を行った。 ●実験的な研究 立ち上がり時間0.5ナノ秒以下の電圧発生器と、新たに購入した周波数帯域1GHz以上のオシロスコープを用意することができ、計測系の構築を行った。この計測システムで観測可能なコイルの大きさ、巻き数、巻き方法等の検討をし、巻線機を自作して直径1mのコイルを製作した。ステップ電圧源から特性インピーダンス50Ωのケーブル、さらに整合用の50Ω抵抗に接続し、この抵抗にコイルと直列に1kΩを挿入して電流を測定した。1kΩの入力端から流入する電流や、1ターン毎に電流を測定することによって、電流の伝搬速度や波高値の変化を測定した。コイル端子の電流はインダクタンスと抵抗からなる一時遅れ系の電流が現れる前の容量性の電流が階段状になることを確認することができた。また、入力端子電流は単極性であってもコイル内の電流は双極性となることが新たな知見として得られた。 ●解析的な研究 マルチコアのCPUへの交換、主メモリの拡大でシステム増強を行った。これにより、より詳細な時間分解のシミュレーションが可能になり、並列計算によって、実験に使用するモデルコイルのステップ応答を調べた。 モーメント法では、電流はステップ状に変化するが誘電体を模擬しないため実験結果との差が大きい。そこでFDTD法で解析を行い、実験結果に近い解析結果を得ることができた。特に、導体に絶縁被覆を設けた解析ができ、より実モデルに近い条件の解析が可能となった。ただし、計算時間が1週間以上となるため、今後、GPUやCPUコアを増加させた並列計算で計算時間を短縮する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験的研究では、ステップ電圧をコイルに印加し、電流と電圧分布を測定する。このためには立ち上がり時間の短いステップ電圧発生器(立ち上がり時間0.5ナノ秒以下)に加え、時間分解能がナノ秒以下となる周波数帯域1GHz以上のオシロスコープを新しく購入でき、電圧プローブおよび電流プローブもこのオシロスコープに対応したものを準備することができた。 また測定用コイルの製作では手作りであるが均一なコイルを作成でき、階段状に変化する電流を観測することができた。コイル内の電流の測定はコイル巻き線毎に電流測定用プローブを挿入する必要があるが、複数個の電流プローブの用意は経済的ではないので、コイルの一部を切り離すことが可能な構造にした。連続するコイルとの応答特性の差異は少ないことが確認でき、電流のコイル内の進行に伴う変化を確認できた。 解析的な研究では、シミュレーションシステムの増強については、マルチコアCPUとメモリの購入により、3.8GHzクロック16コア、64GBの処理システムを用意でき、解析プログラムを順調に実行できる状態を実現した。予備計算システムでは10日以上になる計算を5日以下で実行できた。実験と同じ空芯コイルをCADで作成してコンピュータシミュレーションを行い、25年度に行う本格的な研究の準備を行った。その結果、実験と同じ条件のシミュレーションでは、まだ計算力が不足することから。25年度にさらに増強する必要が生じている。もし、十分な増強ができなければ、モデルを縮小してシミュレーションを可能に必要がある。 実験、解析面の成果は電気学会研究会、電気学会全国大会で報告することができた。 以上、実験面では所期の計画をほぼ100%以上達成できているが、解析面では、80%の達成である。
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今後の研究の推進方策 |
実験用のコイルモデルは、空芯コイルのみならず変圧器鉄心コイルの測定も行うために、配電用変圧器鉄心を使用したモデルを作成し、空芯コイルとのサージ現象の違いを調べる。これによって実用的な変圧器のサージ解析モデルの作成を行う。コイル内の電流の測定は複数の電流プローブをコイル内に挿入することによって可能であることは平成24年度の研究実施で明らかになった。しかし、巻き線間の電圧測定は、オシロスコープの電圧プローブを使用してみたところ、プローブケーブルの外部導体がコイルと電気的に接続状態になり、電圧波形にノイズが重畳していると考えられる測定波形となった。そこで、平成25年度は光電界センサと光ケーブルを使用した電圧測定システムを構築し、コイル内の電圧分布を測定する。電界センサはEMC測定用に既設のものであるが、電界測定用であり、サージ電圧測定用ではないので、電圧測定用に改良する。 解析面では、実験コイルモデルを解析できるように、解析システムの改善を行うとともに、計算精度や計算時間の削減を目標として、新たな解析モデルの作成を行う。特に、数値的な安定性を保ちながら長時間シミュレーションを行う空間分割、コイル導体近傍の物体(導体と誘電体である導体被覆)のモデル化が、有用なシミュレーション結果を得るには重要と考えている。このために、種々のモデルの作成を試みる。適切なモデルが得られたならば、実験と同じ条件でシミュレーションを行い、実験では測定が不可能な状態(たとえば、多層巻きコイルや誘電体層)のサージ現象への影響を調べる。 空芯コイルのステップ上の電流変化は測定できているが、鉄心入りコイルについて本年度で電流応答や電圧分布に実験・解析を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の研究の中で、シミュレーションに多大な時間を要することが明らかになり、平成25年度に計画していたGPUやCPUコアの増強以上に、システムの強化が必要なこと、また平成25年に新しいCPUが発売になるとの情報から、平成24年度の予算の一部を25年度に繰り越して、研究を行う。 平成23年度に準備した計測システムと解析システムを使用して、実験結果とシミュレーション結果を比較できるように研究を進める。 実験的研究では、平成24年度に準備した測定システムを使用してコイルのステップ応答を測定する。コイル端子の電圧、電流特性に加え、コイルの巻線内の電流と電圧分布の時間変化を測定するために消耗品費を使用して複数の電圧電流プローブを巻線内に挿入して平成24年度に続いてコイルの巻線、巻き方を変えたモデルを製作する。巻き数やコイル導体の大きさ、コイルサイズでステップ応答がどのように変化するかを実験的に調べるために、これらの諸量を変えたコイルを複数製作する。 計算機シミュレーションでは、実験に使用するモデルコイルの計算機シミュレーションを行う。特に、実験では困難なパラメータ解析を巻き数やコイルの大きさ、巻線法について行う。これは大量の計算、かつ詳細な計算機モデルのため大量のメモリと、計算力が必要になる。そこで、23年度に続いて計算時間の短縮を図り、ワークステーションのCPUに加えて、コプロセッサとしてGPUを購入して、コイルに発生する電磁界の時間変化を求める。これによって、コイルの端子電圧電流のみならず、コイル内の電圧、電流分布を求めることができる。またパラメータ解析も可能になり、次年度に行う等価回路算出の準備ができる。
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