研究課題/領域番号 |
24560373
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
飯田 和生 三重大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80135425)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 絶縁材料 / トリー / 劣化抑制 / 耐電圧寿命 / 金属水酸化物 |
研究概要 |
金属水酸化物のトリーイング劣化抑制剤としての効果について検証するため、エポキシ樹脂に3種類の金属水酸化物(水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ベーマイト)を充填剤として加えた複合体のトリー劣化特性を評価した。その結果、いずれもトリー進展をエポキシ樹脂単体の比較試料に比べて抑えることができ、電圧印加後の絶縁破壊までの寿命を伸ばすことができた。その効果は、粒径が約1μmのものを30重量部充填した複合体で、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ベーマイトの順に小さくなり、脱水分解反応が生じる際の吸熱エネルギーの大きさだけでなく、それが生じる温度と樹脂の分解温度も効果の大きさに影響を及ぼす要因であることが分かった。また、充填剤と樹脂の密着性も寿命に影響を及ぼす大きな要因で、密着性が悪いと寿命を短くなる方向に作用することが分かり、金属水酸化物の効果を効率よく生かすためには樹脂との密着性を確保した複合体とする必要があることも分かった。 金属水酸化物がトリー進展を抑える機構はトリーが進展して金属水酸化物に達するとトリー細管内で生じる部分放電によって金属水酸化物が脱水・吸熱反応を起こして酸化物に変化し、そのために消費された部分放電のエネルギーがエポキシ樹脂の分解・トリー進展に寄与しなくなることによりトリーの進展が遅くなるものと考えられる。このことを検証するため、試料の断面観察および分析を行った。その結果、トリーに曝された金属水酸化物はその形態を大きく変え、変質した部分をTEMによる観察と電子線回折による分析を行った結果、水酸化マグネシウム粒子の表面層が酸化マグネシウムに一部変化し、水酸化マグネシウムが吸熱・脱水反応を起こしていることが裏付けられた。この結果は電気学会の研究会などで発表するとともに、論文誌に投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第1の目的である金属水酸化物がトリーに曝されたときに吸熱・脱水反応を起こしてトリー進展を抑えるトリー劣化抑制剤として機能することは確かめられた。また、その抑制機構の根幹を構成する現象である吸熱・脱水反応が起こっていることを、充填した水酸化マグネシウムの一部が反応生成物である酸化マグネシウムの検出したこと、絶縁破壊直の部分放電による試料温度上昇もエポキシ樹脂単独試料よりも低いことなどから証明することができた。 金属水酸化物のトリー劣化抑制効果には脱水・吸熱反応の際の吸熱エネルギーの大きさ、反応が起こる温度と母材樹脂の分解温度の関係、金属水酸化物と樹脂との密着性が大きな影響を及ぼすことが分かった。また、形状が異なる3種類の水酸化マグネシウム、2種類の水酸化アルミニウムを用いて実験を行ったが、形状の影響は小さいことも分かった。
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今後の研究の推進方策 |
金属水酸化物充填高分子複合体のトリー劣化を通じた耐電圧寿命に大きな影響を及ぼす要因として、1.金属水酸化物の吸熱・脱水反応の際の吸熱エネルギーの大きさ、2.反応が起こる温度と母材樹脂の分解温度の関係、3.金属水酸化物と樹脂との密着性の3つがあることが分かった。トリーに曝された水酸化マグネシウムの分析からトリー進展抑制に有効な吸熱・脱水反応は水酸化マグネシウム粒子の表面層数10nmに限られていて、粒子内部の寄与は小さいと考えられることから、さらに小さい充填粒子を使うことが有効であると考えられる。しかし、小さい粒子の充填では粒子の分散性が悪くなることも考えられ、その影響も懸念される。 今後は耐電圧寿命に影響を及ぼす要因と考えられることを一つ一つ実験により確認を行いながら、まずはエポキシ樹脂に対して最適な充填剤の種類、粒径、表面処理方法、分散状態を明らかにし、その他の樹脂へと展開する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の研究費は主に金属水酸化物、樹脂、針電極作製用の金属材料などの消耗品の購入、学会での発表のための旅費に充てる。
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