研究課題/領域番号 |
24560376
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
小柳 剛 山口大学, 理工学研究科, 教授 (90178385)
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研究分担者 |
岸本 堅剛 山口大学, 理工学研究科, 助教 (50234216)
浅田 裕法 山口大学, 理工学研究科, 准教授 (70201887)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | スピン・ゼーベック効果 / 磁性半導体 / 酸化物磁性絶縁体 / 逆スピン・ホール効果 |
研究概要 |
今年度(平成24年度)は、主に、スピン・ゼーベック効果の測定装置の作製とその検討、及びスピン・ゼーベック効果やスピン・ゼーベック効果により生じたスピン流を検出する逆スピン・ホール効果の基礎理解に研究を充てた。試料の作製については、これまで実績のあるCd1-xMnxTeエピタキシャル薄膜、及び磁性クラスレート化合物焼結体試料であるので、特に、過去の実績を超えるような特性は得られなかった。 スピン・ゼーベック効果の基礎的研究として、キュリー温度が室温以上のYIG(Y置換鉄ガーネット)焼結体やパーマロイ薄膜のスピン・ゼーベック効果について調べた。YIG焼結体については、厚み方向の温度勾配による垂直型スピン・ゼーベック効果を、パーマロイ薄膜については、膜面方向の温度勾配による平行型スピン・ゼーベック効果を観測した。 スピン・ゼーベック効果の測定台については、試料の温度勾配と垂直方向に温度むらが生じると、試料に発生するネルンスト効果による起電力や、Pt電極のゼーベック効果による起電力などが生じ、測定に誤差が生じるため、測定台で温度差を付けるヒーターの取り付け方法に注意が必要であることがわかった。また、測定台の周りの空気に流れがあると、測定にノイズが生じるため、測定台に覆いをするなど、空気の流れにも注意する必要があることがわかった。低温度での測定装置については、室温で問題となった試料台の温度勾配と垂直方向の温度むらや試料周りのガス(低温ではHeガス)の流れが、室温の測定以上に顕著に影響を及ぼすことが明らかになった。 また、スピン・ゼーベック効果を検出する逆スピン・ホール効果が生じるPt電極について研究を行った。Pt電極の膜圧はスピン・ゼーベック効果により注入されたスピン流の拡散長程度の数10nmのとき、最も逆スピン・ホール電圧が高くなることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
今年度は、試料の作製については、MBE法によるCd1-xMnxTeエピタキシャル薄膜の成長、及び磁性クラスレート化合物焼結体試料の作製は、計画通り行うことができた。ただし、Cd1-xMnxTeエピタキシャル薄膜については異常ホール効果の測定によってキュリー温度の確認を行うことができたが、磁性クラスレート化合物焼結体試料については、今年度の液体Heの品不足により、低温での磁化測定を行うことができず、強磁性体が得られたかの確認はまだである。 室温でのスピン・ゼーベック効果の測定装置は完成して、キュリー温度が室温以上の試料では、スピン・ゼーベック効果の基礎的研究を行うことができた。また、スピン・ゼーベック効果の以外の物性測定は、液体He不足によるSQUIDによる磁化測定以外、概ね計画通り行うことができた。 本研究において、研究の遅れている最も大きな原因は、低温でのスピン・ゼーベック効果の測定装置が不調で、本研究で対象となっている試料のキュリー温度が室温以下であるため、計画している試料でのスピン・ゼーベック効果の研究を行うことができなかったことである。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究において、スピン・ホール効果測定台についての知見が得られたので、次年度は、その知見を基にして、低温から室温までの温度依存性の測定が可能な測定台の作製に着手する。測定装置は、コールド・ヘッドで試料を冷却する冷却装置については、垂直型スピン・ゼーベック効果の測定装置を、Heガスの対流で冷却する冷却装置については、試料をカバーして、水平型スピン・ゼーベック効果の測定装置の2種類の測定装置を作製して、スピン・ゼーベック効果の測定に全力を挙げる。 さらに、スピン・ゼーベック効果を検出する逆スピン・ホール効果が生じるPt電極については、高真空で試料が作製できるスパッタ装置を用いて、Pt電極の膜質向上を図り、数10nmの極薄薄膜で抵抗の低いPt電極を製膜して、多くの電流量を取り出せる電極の検討を行う。また、Pt電極以外に、逆スピン・ホール効果の大きな材料の開発も行う。 スピン・ゼーベック効果の研究を行う試料に関して、研究計画に記載した材料以外に、室温で強磁性体である塗布プロセスによるBi置換YIG薄膜について、Bi置換量を変化させて、マグノン励起によるスピン流の影響を調べる。 種々の試料についてのスピン・ゼーベック効果の研究を行って、その知見を基にして、熱電発電素子や温度センサーの試作を行い、その可能性を探る。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は、低温度領域でのスピン・ゼーベック効果の測定装置の作製が遅れ、大幅な予算消化の遅延が生じている。したがって、次年度の研究費は、今年度の消化しきれていない予算と次年度の予算とを合わせて、遅れている低温度領域でのスピン・ゼーベック効果の測定装置の作製に主に充てる。また、試料作製に必要な材料費や研究発表のために旅費以外に、高真空スパッタ装置のPtターゲットの購入にも予算を割く予定である。
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