研究課題/領域番号 |
24560376
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
小柳 剛 山口大学, 理工学研究科, 教授 (90178385)
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研究分担者 |
岸本 堅剛 山口大学, 理工学研究科, 助教 (50234216)
浅田 裕法 山口大学, 理工学研究科, 准教授 (70201887)
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キーワード | スピン・ゼーベック効果 / 磁性半導体 / 酸化物磁性絶縁体 / 逆スピン・ホール効果 / 異常ネルンスト効果 |
研究概要 |
今年度(平成25年度)は、5Kの低温から室温まで温度可変が可能なスピン・ゼーベック効果測定装置が完成し、種々のYIG(Y置換鉄ガーネット)やパーマロイ薄膜試料のスピン・セーベック効果の測定を行った。 YIGに関しては、バルク多結晶、単結晶薄膜、塗布型薄膜に関してスピン・セーベック効果の測定を行い、結晶性の良好な単結晶薄膜が最も効果が大きいことを明らかにした。また、これらの試料のスピン・セーベック効果の温度特性については、単結晶試料で報告されている50K付近の起電力の異常は観測されなかった。塗布型YIG薄膜に関しては、表面をドライ・エッチングした試料のスピン・ゼーベック効果は表面のアモルファス層が除去されると共に起電力が増大し、スピン・セーベック効果は深さ数10nm程度までの表面の状態が大きな影響を及ぼしていることが推察された。 本研究のスピン・ゼーベック効果測定装置は異常ネルンスト効果の測定も可能であるので、Ge1-xMnxTe薄膜にのキュリー温度(~150K)以下の低温度領域で異常ネルンスト効果の測定を行った。得られた結果として、キュリー温度以下で異常ネルンスト効果が観測され、その起電力が50K以下の低温で符号が反転した。この起電力の反転をモットーの関係式により説明を行い、サイド・ジャンプ散乱が支配的であるGe1-xMnxTeの伝導だけでは説明されず、低温度領域でのフォノン・ドラッグによるゼーベック効果の増大が関係していると考えられた。 完成した測定装置は試料の面直方向、面内方向の両方向に温度勾配を付けられ、温度を変化させながら、スピン・ゼーベック効果の他に、ネルンスト効果、ホール効果、通常のゼーベック効果、電気伝導率を同時に測定が可能な装置である。このような装置は世界的に見ても多くは存在しない測定装置であり、種々の試料のスピン流や熱磁気輸送特性の物性解明が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初予定していたスピン・ゼーベック効果測定装置の完成が今年度末(平成25年度)にずれ込んだため、今年度(平成25年度)予定していた種々の試料のスピン・ゼーベック効果の測定、及びその他の物性との関連性の研究はまだ進んでいない。試料作製に関しては、GeTe系化合物磁性半導体薄膜や磁性クラスレート化合物焼結体は作製が可能な状態であるが、測定が進まないので、試料作製が本格化していない。 しかし、YIGにおけるスピン・ゼーベック効果のPt電極との界面における知見や温度依存性の測定から、スピン・ゼーベック効果の解明の端緒が開かれたものと考えている。 また、新しい発電原理として期待されている磁性金属や磁性半導体の異常ネルンスト効果について、Ge1-xMnxTe薄膜において今年度(平成25年度)観測しており、当研究がこの分野へ展開を始めている。次年度以降の新しい研究の芽が出てきたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度(平成26年度)は、完成した測定装置を用いて、YIGに関しては、Yを他の希土類元素と置換した塗布型薄膜について、YIGのスピン・ゼーベック効果に及ぼす希土類元素依存性などの磁性絶縁体の材料物性とスピン・ゼーベック効果の関係を探る。GeTe系などの化合物磁性半導体薄膜については、磁性イオンの種類も変化させた種々の組成の薄膜を作製し、化合物磁性半導体に関してもこれらの物性値とスピン・ゼーベック効果の関係を探る。また、磁性クラスレート焼結体材料に関してもスピン・ゼーベック効果の測定を試みる。 化合物磁性半導体薄膜については、異常ネルンスト効果についても研究を進展させ、これらの化合物磁性半導体の異常ネルンスト効果に関して、異常ホール効果や通常のゼーベック効果などの測定を基にして、熱磁気輸送特性の一環として総合的に研究を行う。 スピン・ゼーベック効果の大小は温度勾配で生じたスピン流を電圧に変換する逆スピン・ホール効果の大小とも関係しており、逆スピン・ホール効果が大きく、安価なPt電極に代わる材料の探査も行う。候補としては、Biなどの重い元素を含む層状化合物やトポロジカル絶縁体などを考える。 さらに、スピン・ゼーベック効果や異常ネルンスト効果を利用した薄膜型熱電発電素子や高感度薄膜型温度センサーなどの開発も検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度(平成25年度)は当初の計画した予算以上の額を消化したが、初年度(平成24年度)の計画の遅れによる大幅な予算未消化によって、今年度終了時においても未使用額が生じている。昨年度(平成24年度)終了時の計画では、遅れていた低温スピン・ゼーベック効果の測定装置の作製、及び電極材料であるPt薄膜を作製するPtスパッタ・ターゲットの購入に予算を充てたが、測定装置の完成が年度末となったため、試料作製が本格化せず、試料作製のための材料費購入が遅れによる未消化予算が多く残っている。 最終年度である平成26年度は、ホール効果、ゼーベック効果も同時測定が可能なスピン・ゼーベック効果、ネルンスト効果の測定装置が完成したので、スピン・ゼーベック効果、ネルンスト効果を示す種々の材料の薄膜の作製、及び逆スピン・ホール効果を示す電極の材料開発に係る材料の購入に充てる。また、測定装置が一部自動化されていないので、その自動化にも予算を充てる。本研究が進展を見せているので、その成果を国内学会や国際会議での講演するための旅費や論文投稿料にも予算を充てる予定である。
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