研究課題/領域番号 |
24560383
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
山本 寛 日本大学, 理工学部, 教授 (90130632)
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研究分担者 |
岩田 展幸 日本大学, 理工学部, 准教授 (20328686)
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キーワード | 単層カーボンナノチューブ / カイラリティ / 自由電子レーザー / 化学気相成長 / 配向成長 |
研究概要 |
単層カーボンナノチューブ(SWNTs)の物性を左右する直径と炭素結合方位(カイラル)の制御技術の確立は応用展開する上で急務の課題である。本研究の目的は,アルコール触媒気相成長を用いるSWNTs成長中,特定の波長の高エネルギー極短パルスレーザ(自由電子レーザ)を照射することによって,照射光共鳴エネルギーに対応する所望のカイラルを持つSWNTsの成長を選択に促進できるプロセスを開発するところにある。これはまったく新しいカイラル制御法の提案,独創性の高いプロセス開発であり,挑戦的な課題である。 本研究の目標はFEL照射によるCVD法において,金属・半導体SWNTsが作り分けられる技術の芽を確立するところにあり,3年間の開発後には,基板上にて各特性のSWNTsを選択的に成長出来るレベルに至るであろう。 平成25年度の実験により,成膜条件の最適化を図り,サファイア基板を用いて検討を深めた。FEL未照射の結果では、金属と半導体のSWNTが混合して成長していたが,r面サファイア基板上にSWNTsを成長させることにより,[-111]方向に揃って成長した。一方,800nmのFELを照射した結果においては,ラマンスペクトルのRBMピークより見積もったSWNTs直径は約1.05nmとなり,Kataura-Plotを用いて解析した結果,半導体性のSWNTのみが成長していることが確認された。さらに, 800nmを中心として,前後に20nmずらした波長のFEL照射時には,上記の照射効果は見いだせなかった。注目すべき結果として,SWNTsはステップテラスに対して垂直方向に成長し,しかも,それぞれ単独のSWNTが配向成長することも観測された。 結論として,FEL照射CVD成長法によって,SWNTsの成長方向及びカイラリティの同時制御にはじめて成功したと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時,平成25年度の目標と研究計画は,共鳴吸収波長のFELを照射しながら,ACCVD法によってSWNTs を成長させるにあたり,1)照射FEL波長・パワーの検討:触媒微粒子径によってSWNTsの径を決定すれば,それに対応する固有励起エネルギーがカタウラ・プロットから決定される。500nm、800nmならびに1500nm近傍の波長のFEL照射実験を行い,半導体・金属相の成長制御の可能性を検証する。2)SWNTs径・照射FEL波長依存性の詳細な検討:触媒微粒子径を減少し,SWNTsの径を1.0nm以下に小さく変化させると,固有励起エネルギーは相対的に高くなり,金属・半導体相はより明確に区別できると期待できる。照射FEL波長を500nm及び800nmを中心として,10nm程度の幅をもって系 統的に変化させながらSWNTs成長実験を行い,同時に照射パワー及び照射時間依存性について最適化条件を探る。 こうした一連の目標に対して,平成25年度,共鳴吸収波長800nmのFELを照射し,半導体性のSWNTのみが成長していることを確認できた。また,800nmを中心として,前後に20nm程度波長をずらしたSWNTs成長実験を行い,照射効果が最も明確なのは800nmのみであることを確かめた。しかし,500nm照射実験を未だ行っておらず,次年度に引き続き実験を遂行する予定である。結論として,おおむね計画通りに展開されていると判断される。 一方,当初の計画では,次年度に,申請者らが用いている顕微ラマン装置に加え,連携研究者の矢島教授が保有する異なる励起波長のラマン分光装置を用いた共鳴ラマンスペクトル分光結果を合わせ解析することにより,SWNTsの カイラルをより精緻に決定する計画であったが,前倒して平成25年度に実施することが出来たのは,大きな前進的成果であると評価される。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに遂行した成果を踏まえ,実験結果を総括するとともに,SWNTsのカイラル制御機構の解析的アプローチを加える。さらに,照射するFEL波長を変化させた系統的結果に基づき,カイラル制御機 構モデルを構築し,新しいSWNTs成長プロセスを提案する。 特に、平成26年度は以下のように,具体的な実験を遂行する。1)SWNTsの分析評価・解析:作製されたSWNTsに関する一連の蓄積されたデータを次のような観点から系統的に解析する。まず,顕微ラマン分光によって金属・半導体相を評価するが,共鳴ラマンスペクトル解析によりカイラル指数の候補決定を行う。同時に,SEM,AFMによって行う表面形状観察ならびに電気物性測定結果とも併せ,SWNTsのカイラルをより精緻に決定する。 2)SWNTs成長機構モデルの構築と総括:SWNTsのカイラル指数候補と作製条件との相関性を整理する。SWNTsの径を単一にすることは極めて難しく,現状では,一定の径分布のもとでカイラル・ベクトル分布がどの程度絞られるかを明らかにする。実験的事実を基に,触媒微粒子上での成長初期段階において,FELによる電子励起状態がナノチューブの軸方向に対する特定の炭素結合成長方位を優先的に促進する機構について,定性的モデルを構築する。 最終的には,申請者の作成したカイラル制御モデルに基づき,特性の揃ったSWNTsを「その場成長」させる基本的プロセスを提案し,あわせてSWNTナノデバイス作製へ向けた新しいプロセス提案を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
旅費が手続き時点での見込みより支払わずに済んだため。 平成26年度に予定している、国際会議IUMRS-ICA2014での成果発表に支出する。
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