本研究では、低コスト・高性能の緑色半導体レーザを実現するために、通常の窒化物半導体デバイスで用いられているc面GaN基板ではなく、c面から30~40度程度傾斜した面方位を表面にもつ基板(以下、低角半極性基板と呼ぶ)の上にレーザ層構造を積層した半導体レーザ素子構造の実用可能性の実証に取り組んだ。このレーザ構造では、偏光特性が我々の理論予測どおりになっていれば、劈開面を共振器ミラーに用いることができるため、従来の緑色半導体レーザに比べ、低コスト・高性能化が期待できるものである。 研究期間の間に、複数の民間企業の協力により、非c面GaN基板上InGaN量子井戸のサンプルを作製していただき、それらの偏光特性を測定し、これまでの文献データとの比較、及び、未探索領域のデータ取得を行った。その過程の中で、これまでの文献の中で行われている「偏光PL測定」と呼ばれる手法では、偏光特性を実質的に決めている価電子帯構造を正しく把握できないこと、及び、「偏光PLE測定」と呼ばれる手法を用いれば正しい理解が可能になることがわかった。このため、これまでの文献データ、及び、それに基づく理論予測はすべて見直す必要がある。そこで、本研究では、急遽、これまでのデータをすべて疑い、ゼロからデータを取り直していくことを開始した。その結果、これまでにc面から90度傾斜した基板上のInGaN構造についてはデータがほぼそろう状況まで達した。今後、他の面方位まで実験対象を広げ、価電子帯構造の完全な把握、及び、それに基づきレーザ特性予測を行っていく予定である。 一方、それと並行して緑色半導体レーザの光学利得、及び、その偏光特性を同時に正確に測定する装置の開発もこの研究期間中に完了し、一部の半導体レーザについて光学利得を広い波長範囲に渡って計測することに成功した。
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