研究課題/領域番号 |
24560388
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研究機関 | 公益財団法人電磁材料研究所 |
研究代表者 |
大沼 繁弘 公益財団法人電磁材料研究所, その他部局等, 特任研究員 (50142633)
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研究分担者 |
増本 博 東北大学, 学内共同利用施設等, 教授 (50209459)
直江 正幸 公益財団法人電磁材料研究所, その他部局等, 主任研究員 (50533725)
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キーワード | 薄膜・量子構造 / ナノグラニュラー構造 / フッ化物 / 高周波 |
研究概要 |
本課題の目的は,従来の金属薄膜材料よりも比抵抗が極めて高い金属的磁性膜を開発することと,これらのデバイス応用に関する基礎検討を行うことである. 25年度以降の計画には,①高抵抗のフッ化物系ナノグラニュラー軟磁性膜の作製と特性評価,および②磁気デバイスの基本設計および作製と評価の2項目を挙げた. ①については,前年度までに有効性を見いだしているCaF2マトリックス相およびCo基合金グラニュール相を用いた膜の作製および評価を行った.まず,Co基合金グラニュールを,24年度に見いだしたCoPd合金からCoFePd合金への改良,即ち,Feの添加を行うと,膜の異方性は減少する代わりに磁化が高くなるため高透磁率化し,軟磁性体としての素性が良くなることがわかった.次に,本研究で採用しているタンデム法における基板回転が,膜の異方性付与に大きく寄与していることを見いだし,これを積極利用することで異方性がさらに強まり,かつ異方性分散が低減することがわかった.さらに,膜組成におけるグラニュールの量を増加させると,比抵抗は低下する一方で異方性は強くなることも見いだした.結果,一部の試料において,高周波限界がSHF帯(3 GHz~)にまで及び,最高のもので7 GHzを超えた.これは,公表されているナノグラニュラー膜の結果の中で最高となるものである一方で,比抵抗の低下はCaF2による高抵抗化の恩恵を受けて許容範囲に留まった.ただし,これら現象の直接的な要因は未確認であり,デバイス応用に適するまで膜の性能を高めるに至っていないので,②については26年度に遂行するものとする. 以上の進捗に基づき,直接的には,4件の論文掲載,1件の国際会議発表,および8件の国内学会発表を行った.国際会議発表については,新技術賞を受賞するに至った.関連研究においては,2件の論文掲載と10件の学会発表が行われた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「9. 研究業績の概要」で述べたとおり,25年度は,予期せぬ多くの発見があったため,デバイス応用に適した膜にまで性能を高めるには,これらの直接的な要因を究明する必要がある.つまり,研究計画からやや遅れて進展しているのは,材料に関する検討事項が大幅に増加したことによるものであり,25年度当初に予定していた検討事項については,デバイス応用に関するものは除いて,概ね成果が出ているものと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
実用的な磁気デバイス開発のためには,単に高抵抗で高周波限界性能がGHzに及んでいるだけではなく,異方性分散も小さくなければならない.異方性分散が大きければ,低周波から磁気損失成分が発生するからである.グラニュラー膜については,従来異方性分散が大きいことが知られている.しかし,「9. 研究実績の概要」で述べたように,成膜方法であるタンデム法の特徴である基板回転を利用すれば,異方性分散が抑制されることを見いだしており,現在までに,従来の半分程度にまで抑えられている.ただし,優れた高周波特性を得るためには,さらに3分の1程度にまで分散は抑えられるべきである.このためには,材料の微細組織や特性を詳細に解析し,成膜条件の最適化をさらに進める必要があると考えられる. しかし,昨年度までに見いだした現象を論理的に考察した結果,研究組織メンバーの着想と努力が無駄なく遂行されたことによって,比較的短時間に成果を得ることができている.デバイスへの応用実験については,適する膜の開発にまで至っていないために未着手であるが,これも過去の成果による技術の蓄積があり,これらを活用することで遅れを取り戻し,短期に完了することができると考えている. 研究費の使用計画については,研究費の大半を占めていた装置の整備は昨年度に完了しており,今年度以降は,残額による試料作製に消費する原材料および消耗品の購入,および成果報告の費用に特化して使用している.
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