研究課題/領域番号 |
24560402
|
研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
根尾 陽一郎 静岡大学, 電子工学研究所, 准教授 (50312674)
|
キーワード | 表面プラズモン共鳴 / クレッチマン配置 / オット配置 |
研究概要 |
本研究では,THz帯Superradiant Smith-Purcellに必要な10psec以下の超高速変調電子ビーム形成を目的とした表面プラズモン共鳴(SPR)による光励起カソードを提案している.また光子吸収過程にSPRを用いて量子効率の向上を目指した. これまでの結果SPRと同期した光電子の量子効率(QE)は10-5~10-4であり共鳴からズレた入射条件と比較し100倍程度の増加が確認されたが,従来の紫外線励起金属ホトカソードと同程度の値であった.原因を考察した結果,真空中に光電子放出する際,電子・電子散乱を経て運動方向を回転する必要がある為と考えられる.電子・電子散乱はエネルギー損失を伴い,結果として低いQEに留まると考えられる. 電子の運動量励起方向と電子放射方向を一致させる為,クレッチマン配置の金属薄膜の端においてSPRを行った結果,電子放射は著しい増加を示しQEが0.1以上まで増加する事に成功した.しかし電子放射はパルス的であり,共鳴に用いたアルミニウム薄膜には,フラクタル状の剥離が確認された.この原因を高電流密度で20nmの薄膜を流れる電流によるダメージと類推される. 今後,この問題を解決する為に,クレッチマン配置からオット配置へと変更し,同様に電子運動量励起方向と真空中への電子放射方向を一致させた場合の電子放射特性について評価する予定である.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の予定通り,表面プラズモン共鳴を光子吸収過程に利用したホトカソードにおいて,その優位な効果は確認された.しかし,本研究の応用が期待されるアプリケーションには充分な性能は有していない事が初めて明らかとなり,またその物理的な理由も考察により明らかとなった.クレッチマン配置のホトカソードでは電子放出に必要なモーメンタムと,プラズモン共鳴により励振されるモーメンタムが90度異なる事で,電子放出には電子・電子散乱による運動方向の回転が必須である事を明らかとした。 さらにこの問題を解決する為に,電子・電子散乱を経ない電子放出過程を実現する端からの電子放出を考え、実験を進めた所,最大0.16の量子効率,1000倍の増加を達成した. しかし,この様な著しい電子放出は,金属薄膜にダメージを形成する事が分かった.一番興味深いのは,そのダメージがフラクタル図形を取る点である.この現象は雷等の非平衡状態の拡散現象に散見される. 以上の様に,問題の顕在化,その原因の追及,その解決方法,新たな現象の確認と多くの成果を達成した.
|
今後の研究の推進方策 |
今回表面プラズモン共鳴に用いたのはクレッチマン配置である.これはプリズムの上に厚さ20nmのアルミニウム薄膜を堆積する事で,入射されるP偏光レーザーのエネルギーを完全に,プラズモン振動に変換する事が出来る.量子効率0.1台の電子放出をするには薄い為にフラクタルのダメージが形成されたと考えられる. そこで,表面プラズモン共鳴を起こす別な配置であるオット配置を選択して実験を進める予定である.オット配置は,プリズムと金属の間に,200nmのギャップを形成する事で実現可能である事が分かっている.技術的に大面積で,200nmのギャップを形成する事は非常に困難と考えられる.しかし,金属の厚さには条件がない為,放射電流のダメージを軽減する事が可能だと予測される.以上の理由によりオット配置表面プラズモン共鳴を用いたホトカソードを開発する.
|