研究課題/領域番号 |
24560413
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
植松 真司 慶應義塾大学, 理工学研究科, 教授 (60393758)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | シリコン / 不純物 / 拡散 / ホウ素 / 炭素 / イオン注入 / 安定同位体 / シミュレーション |
研究概要 |
炭素とホウ素の共注入に用いる安定同位体シリコン(28Si)と天然シリコンによる28Si(10nm)/natSi(10nm)周期構造(シリコン同位体超格子)試料を用意した。天然シリコンには3.1%の30Siが含まれており、一方、28Si中の30Siは0.1%以下であるので、30Siをマーカーとして観測することによってシリコンの動きを調べることができる。このシリコン超格子試料に炭素を9keV, 1x1015cm-2、続いてホウ素を7keV, 2x1014cm-2の条件でイオン注入した。また、参照用として、ホウ素のみイオン注入した試料も用意した。これらのイオン注入によるシリコン超格子周期構造の乱れがないことを確認した。イオン注入した試料を800℃~1000℃でアニールし、30Si、炭素、ホウ素の拡散プロファイルをSIMS(二次イオン質量分析法)を用いて評価した。 その結果、従来通り炭素を共注入した場合にはホウ素の拡散が抑制されていることは確認された。しかし、シリコンの拡散は逆に促進されていることが30Siのプロファイルから明らかとなり、炭素共注入によってシリコン格子間原子の濃度が増加していることが分かった。これは、シリコン格子間原子を介して起こるホウ素拡散から推測される結果とは逆であり、シリコン同位体を用いることによって初めて明らかとなった成果である。 次に、植松が独自に確立した拡散シミュレーションを用いて、ホウ素拡散プロファイルを解析した。その結果、高濃度ホウ素領域における不働態化したホウ素原子が、炭素共注入によって増加していることが分かった。このホウ素の不働態化は、ホウ素原子とシリコン格子間原子からのBIクラスターによるものであり、炭素の影響によってBIクラスターの解離が遅くなり、拡散する活性化ホウ素原子が減少したことでホウ素拡散が抑制されるというモデルを立てた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今回シリコン同位体を用いることによって、従来言われてきた炭素原子によるシリコン格子間原子の捕獲が、ホウ素拡散抑制の機構ではないことを世界で初めて明らかにすることができた。また、植松が独自に確立した拡散シミュレーションを用いて、ホウ素拡散プロファイルを解析し、炭素の影響によってBIクラスターの解離が遅くなり、拡散する活性化ホウ素原子が減少したことがホウ素拡散抑制の機構であることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
共注入を行う炭素やホウ素のドーズ量を変化させた拡散実験を行い、より広い実験条件からのデータを用いることで、前年度に立てた炭素によってBIクラスターの解離が遅くなるというモデルをより確実なものとする。広い実験条件からのデータにより、シミュレーションに必要なパラメータ値の精密化を図ることもできる。また、共注入した炭素について、その拡散はほとんど観測されなかったことから、CIクラスターとなって不働態化しており、このCIクラスターからのシリコン格子間原子によってその濃度が増加したと考えられる。炭素のドーズ量を変化させた拡散実験からこのモデルを確立する。 また、BIクラスター中のホウ素原子は電気的に不活性でもあり、SIMS測定の他に電気的に活性なホウ素原子濃度を評価できる拡がり抵抗法も併用する。この測定で活性ホウ素が少なくなっていることが分かれば、炭素によってBIクラスターの解離が遅くなるとするモデルをより確実にすることができる。また、必要ならば透過型電子顕微鏡(TEM)によるイオン注入誘起転位の観察も行う。さらに、アトムプローブ法で共注入炭素とホウ素の分布を原子レベルで調べている東北大学の清水康雄助教、および、第一原理計算によりシリコン中の炭素の影響を調べている三重大学の秋山亨助教との議論を通じて、モデルの精密化を図る。 これらの結果から得た炭素共注入の拡散モデルを植松が独自に確立した拡散シミュレーションに組み込み、実験で得られた拡散プロファイルのシミュレーションを行う。市販のソフトを用いるのとは異なり、新たにモデルを組み込むことが自由にできるので、炭素共注入のようにモデルが未だ確立していない拡散のシミュレーションを行うことができる。また、実験結果と構築した拡散モデル・シミュレーションを取りまとめ、成果の発表を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
外部への分析依頼1回に必要な額以下となった分が次年度研究費となった。次年度の分析予算と合わせて使用する予定である。
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