研究課題/領域番号 |
24560413
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
植松 真司 慶應義塾大学, 理工学研究科, 特任教授 (60393758)
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キーワード | シリコン / 不純物 / 拡散 / ホウ素 / 炭素 / イオン注入 / 安定同位体 / シミュレーション |
研究概要 |
安定同位体シリコン(28Si)と天然シリコンによる28Si(10nm)/natSi(10nm)周期構造(シリコン同位体超格子)試料に対して炭素とホウ素の共注入を行う実験を継続した。これまでの実験よりもイオン注入条件を広げ、炭素のドーズ量を変えた場合や炭素のみイオン注入した場合も調べた。その結果、炭素のドーズ量が多いほど、ホウ素の拡散が抑制されるが、その一方、シリコンの拡散は逆に促進されることが分かった。炭素のみを注入した場合にもシリコンの拡散は促進されることからも、炭素注入によってシリコン格子間原子の濃度が増加していることが確認できた。SIMS測定の他に電気的に活性なホウ素原子濃度を評価できる拡がり抵抗測定も行い、炭素のドーズ量が多いほど、活性ホウ素が少ないことも明らかにした。 これらの実験結果より、炭素共注入によって電気的に不活性なBIクラスター(ホウ素原子とシリコン格子間原子から成るクラスター)の解離が遅くなり、不働態化したホウ素原子が増加するために、ホウ素拡散が抑制されることを明らかにした。また、炭素の拡散はほとんど観測されなかったことから、CIクラスターとなって不働態化しており、このCIクラスターからのシリコン格子間原子によってその濃度が増加したことも分かった。 上記の炭素共注入の拡散モデルを植松が独自に確立した拡散シミュレーションに組み込み、実験で得られた拡散プロファイルのフィッティングを行い、提案したモデルの正しさを実証した。市販のソフトを用いるのとは異なり、新たにモデルを自由に組み込むことができる。また、広い実験条件からのデータにより、シミュレーションに必要なパラメータ値の精密化を図ることもできた。実験結果と構築した拡散モデル・シミュレーションを取りまとめ、国際会議における発表(招待講演)、および、論文投稿を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
炭素原子によりBIクラスターの解離が遅くなり、拡散する活性化ホウ素原子が減少するために、ホウ素拡散が抑制されていることを世界で初めて明らかにした。従来は、炭素原子によるシリコン格子間原子の捕獲によるものであると言われていた。今回の成果は、シリコン同位体を用いることによって得られたものである。また、植松が独自に確立した拡散シミュレーションを用いて、シリコン、ホウ素、炭素の同時拡散プロファイルを詳細に解析し、実験結果から得られた炭素共注入の拡散モデルを実証した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの研究で、従来言われてきた炭素原子によるシリコン格子間原子の捕獲ではなく、BIクラスターの解離が遅くなることが、ホウ素拡散抑制の機構であることを明らかにした。さらに、イオン注入した炭素原子はCIクラスターとなり、その解離によってシリコン格子間原子の濃度は逆に増加していることも分かった。炭素原子は、シリコン格子位置を占めている場合には、シリコン格子間原子を捕獲することが知られている。しかし、イオン注入した場合には、注入誘起の過剰なシリコン格子間原子とCIクラスターを形成してしまうために、炭素原子がシリコン格子位置を占めることができない。 このことから、イオン注入した炭素原子が、シリコン格子間原子を有効に捕獲するには、炭素原子がシリコン格子位置を占めるようにすればよいと分かった。その方法として、ゲルマニウムなどの重い原子を高ドーズで注入してシリコンを予めアモルファス化した領域に、炭素とホウ素のイオン注入を行う実験を新たに考えた。イオン注入によってアモルファス化したシリコン領域は、アニールによって再結晶化し、その際、注入によって誘起された過剰なシリコン格子間原子はほとんど消滅してしまう。そのため、注入された炭素原子は、CIクラスター化することなく、シリコン格子位置を占めると予測される。これまでのアモルファス化をしない場合と比較し、アモルファス化した場合の炭素原子のシリコン格子間原子に対する影響を調べる。透過型電子顕微鏡(TEM)によるイオン注入誘起転位の観察も行う。実験結果の解析には植松が独自に確立した拡散シミュレーションを用いる。これらの結果から、炭素原子を用いて有効に不純物拡散を抑制する方法を提案し、成果の発表を行っていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
5~6個からなる一連の試料を外部へ分析依頼するために必要な額以下となったため。 本年度の分析予算と合わせて、外部へ分析依頼するために使用する予定である。
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