光情報処理、光通信分野の技術の進展に伴い、光の強度、位相、偏光等の変調に用いる空間光変調器(以下SLM:Spatial Light Modulatorと表現)の高性能化への要求が高まっている。従来は液晶やデジタルミラーデバイスを用いたものが実用されたが、その応答時間は、数10m秒から10数μ秒程度と遅く、且つ、動作電圧も100~50V程度必要で、次世代の光記録媒体、光相関器等へ用いるには不十分であった。 本研究は、高純度半導体の電気光学効果を利用することで超高速、且つ低電圧駆動が可能なSLMに関するもので、砒化ガリウム(GaAs)を液相エピタキシャル成長法により熱平衡状態に近い状態で残留不純物濃度を10の12乗台という極限まで減少させて成長し、ゼロV下の空乏層厚30μm以上、室温励起子吸収を観測し、層に垂直な光入射構成で電界印加により励起子吸収ピークが長波長側に大きくシフトするという量子井戸構造でしか観測されなかったQCSE(量子閉じ込めシュタルク効果)類似の現象を見出した。この結果を踏まえ、画素の微細化、光応答の超高速化、消費電力の低減化(5V程度)を実現した。従来用いられてきたフランツ・ケルディッシュ効果では空乏層厚が小さく、吸収係数変化も小さいため層に垂直な構成では2.4kVという大電圧で消光比20dBを得ていた。本技術により作製されたSLMは、画素の応答時間1n秒以下(100p秒台)という超高速駆動を実現し、さらに、Kramers-Kroenigの関係(吸収係数の変化は屈折率変化に対応する)から、屈折率の電界による変化も従来の報告例に比べ約2倍となることを計算で示し、新しい光変調器の可能性についても展望を開いた。
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