本研究では,放射線が原因となって引き起こす「ソフトエラー」と呼ばれる電子デバイスの誤動作現象を取り扱った.この誤動作現象は電子デバイスがその信頼性を損う原因となっている.対策のためにその発生過程の正しい理解が必要である.現状,放射線がデバイスに侵入すると物質中に電子ならびに正孔が発生し,これがノイズとなってデバイスが誤動作すると理解されている.しかし,その際に伴うであろう物質の温度上昇については,その影響が議論されていない.本研究ではその影響を数値計算技術を用いて検討した.
平成24年度と平成25年度にかけて,放射線が貫通した直後に温度がどれだけ上昇しているのかを,粒子輸送シミュレータを用いて検討した.また,その温度上昇を境界条件とするようにTCAD半導体シミュレーションを解く方法を検討した.平成26年度は,それまでの成果を元にして,200 nm 完全空乏型SOI-CMOSプロセスで作成されたインバータ回路を例として,昇温効果の影響を調べた.その結果,現在無視されている昇温効果を取り入れることでノイズが大きくなることがわかった.ノイズが発生している時間に着目すると,温度上昇によって10%程度,より長くなっていることが見出された.時間が長くなることはソフトエラーがより起きやすくなる変化であり,昇温効果を取り入れないシミュレーションの結果は楽観的であることを指摘した.なお,昇温効果の導入によって明らかになった時間の伸びは,温度上昇に伴う移動度の低下でよく説明できた.また,用いた手法の適用可能性について,デバイスの寸法の観点から整理した.
|