研究概要 |
本研究の目的は,ビット誤り生起確率に関して最適な非線型力学系に基づくスペクトル拡散符号の実現,相関特性に関して最適な符号ファミリーの構成とその応用である. 自己相関関数は通信の同期を確立する重要な統計量であるが,非線形フィードバックシフトレジスタ(NLFSR)最大周期列の自己相関特性については,最も簡単なNLFSR系列であるde Bruijn系列の場合でさえ,上界だけしか知られていなかった.先に,本研究代表者は,de Bruijn系列の自己相関値の下界を理論的に導出することに成功した.与えた下界は等号が成立する場合があるという意味において最良である(NOLTA, IEICE, 2011). 一方,相互相関関数は通信の多元接続干渉を知るのに重要な統計量である.de Bruijn系列のペアに対する相互相関関数の最悪の場合は,最悪のペアに対する自己相関値の上・下界で与えられる.本研究では,最適な符号ファミリーを構成するために,最悪のペア以外に対する特性に興味があるので,長さ2^nのde Bruijn系列の相異なる自己相関関数の個数を数え上げた.この自己相関関数の数え上げを一般の超離散力学系に基づく最大周期列の場合に拡張した.さらに,最悪のペア以外の場合の相互相関特性の下界を導出した.与えた下界は等号が成立する場合があるという意味において最良である.得られた相互相関特性の上・下界の理論値と先の自己相関特性の上・下界の理論値に基づき,両方の相関特性に優れた特性を有するde Bruijn系列のファミリーを構成した.得られたファミリーは同期捕捉だけでなく,多元接続干渉に関しても優れた特性を有する.理論および数値解析結果から,自己および相互相関特性に優れた特性を有するde Bruijn系列のファミリーの効率的な構成方法も提案した(Proc. NOLTA 2012, 2012. 10).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では,長さ2^nのde Bruijn系列の相異なる自己相関関数の個数を形式的に数え上げた.陽に数え上げるためには,Fredricksenの問題を解かなければならないことを明らかにした.Fredricksenは,長さ2^nのde Bruijn系列に対するCR(complement reverse)系列を定義し,nが偶数のときにはそれが存在しないことを指摘した.さらに,n=3,5 の場合にその存在例を示し,nが一般の奇数の場合にCR系列が存在するか否かを問うた(SIAM Rev., 1982).これをFredricksenの問題という.これに対して,EtzionとLempelはCR系列の特徴付けを行ったが,問題の解決には至らなかった(IEEE Trans. IT, 1984).本研究課題がde Bruijn系列に関する見解決問題に関連があるのは当初予想しなかった発見,収穫である. 本研究代表者は,本研究に関連して,乱数生成に関する研究も行っている.先に,系列全体の空間を考える記号力学系の手法を用いて,HanとHoshiによって提案された区間アルゴリズム(IEEE Trans. IT, 1997)はランダムなブロック(有限列)を生成するアルゴリズムであり,確率過程(無限列)を生成するものではないことを明らかにすると共に,エルゴート理論における有限的符号化を応用して,確率過程を実現する新しいアルゴリズム,有限的区間アルゴリズムを提案した(Trans. IEICE, 2008).記号力学系の手法を用いて,乱数が均等分布の場合にHanとHoshiの上下界よりも良い評価式を陽に与えた(Proc. ISIT 2009, 2009. 7).本研究では,均等分布の場合の結果を,成分が有理数である一般の分布の場合に拡張した(Proc. SITA 2012, 2012. 12).
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今後の研究の推進方策 |
EtzionとLempelによるCR系列の特徴付け(1984)以来,上記Fredricksenの問題(1982)は未解決の難問である. 平成25年度には,長さ2^nのde Bruijn系列の相異なる自己相関関数の個数を陽に数え上げるために,Fredricksenの問題に挑戦する.本研究代表者が開発した,記号力学系,グラフ理論,組合せ論に基づく独自の手法を用いる.nが一般の奇数の場合,CR系列の存在を示すだけでなく,その総数を計算するアルゴリズムを与える.さらに長さ2^nの全てのCR系列を構成的に求め,実現する. 同時に,前年度までに得られた結果を,さらに一般のNLFSR最大周期列の場合に拡張する.すなわち,超離散力学系に基づく最大周期列(NLFSR最大周期列)の相関関数解析を行う.接近法は理論解析と数値解析である. 理論解析:de Bruijn系列の自己相関関数に関する結果[NOLTA, IEICE, 2011]と相互相関関数に関する平成24年度の結果を,さらに一般のNLFSR最大周期列の場合に拡張する.直接的な拡張が困難であると思われるので,有限ブロックと確率過程(無限列)を同時に考える上で強力な道具を提供する記号力学系の手法を用いて,新たなNLFSR最大周期列相関関数解析を試みる. 数値解析:NLFSR系列生成装置を用いて,[NOLTA, IEICE, 2010]で提案したアルゴリズムにより,超離散力学系に基づく最大周期列を生成する.相関特性解析ソフトを用いて,各系列の自己および相互相関特性を解析し,相関値,その最大および最小値のデータベースを構築する.数値解析結果は逐次理論解析に反映させる. 総合解析:理論および数値解析結果から,自己および相互相関特性に優れた特性を有する系列のファミリーの構成方法を提案する.
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