研究課題/領域番号 |
24560447
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
橘 拓至 福井大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20415847)
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キーワード | 通信方式 / ネットワーク設計 |
研究概要 |
本研究課題では,次世代光・無線統合ネットワークにおいて,障害や故障に強いロバスト性を考慮したネットワークトポロジの設計法とトラヒックエンジニアリング技術を確立する.本課題では,初年度である平成24年度に確立したトポロジ設計法を用いることによって,大規模光ネットワークに対して,少ないコストで総伝送トラヒック量とロバスト性が共に向上するトポロジの設計が可能になった.しかしながら,この確立した方法では,統合ネットワークのトラヒックが増加するたびに,ロバスト性が悪化することになる. そこで,2年目となる平成25年度は,ロバスト性を悪化させないようにデータ伝送量を制御するトラヒックエンジニアリング技術の確立に取り組んだ.本技術ではまず,各リンクに対して単位資源量当たりの指標の増加率を計算する.この指標の増加率が高くなると,ネットワークのロバスト性は低下するため,増加率の低いリンクを使うことが望ましい.そこで,光ネットワークに対しては,トラヒックの増加率をコストとした巡回セールスマン問題として定式化し,迂回経路を含んだ経路を導出する.今年度の実施期間では,問題の定式化を終了して近似解の導出を行い,さらに経路を導出するためのアルゴリズムを検討している.一方,無線ネットワークに対しては,限られた伝送距離で広範囲にデータを伝送するためのデータ伝送技術を確立した.本方式では,無線ノードの位置やノード間の電波環境を考慮してロバスト性を悪化させない伝送経路を導出する. これらの成果によって両ネットワークの経路を導出すると,エンドツーエンドの経路も容易に導出することができる.しかしながら,それぞれのネットワークで得られた経路が,必ずしもエンドツーエンドの経路として最適とは限らない.そこで,平成26年度は,両ネットワークを同時に考慮した経路探索アルゴリズムの構築を目指す.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度に実施する研究内容は,当初の予定では,光ネットワークと無線ネットワークの両ネットワークに対して,ロバスト性の悪化を回避するトラヒックエンジニアリング技術を確立することであった. そこでまずは,光ネットワークに対して,巡回セールスマン問題により定式化をした後,焼きなまし法で最適経路の導出を行った.焼きなまし法はパラメータ設定が難しいが,本方式により最適解を導出でき,トラヒックエンジニアリング技術を確立することができた.本方式の有効性はモンテカルロシミュレーションで評価し,様々な状況での効果を調査した.しかしながら,経路導出に長時間を要することが判明したため,この問題を解決するために新たな高速アルゴリズムの導出を行う必要が生じた.そのため,平成25年度の目的の一部を達成することができなかった. 無線ネットワークに対しては,ノード位置や電波環境を考慮してロバスト性を悪化させない伝送経路を導出するための方式を検討した.本方式では,ノード間距離と送受信ノード間の伝送トラヒック量を考慮して伝送経路を決定することでトラヒックエンジニアリングを実現している.本方式の有効性はモンテカルロシミュレーションで評価し,様々な状況での効果を調査した. このように,光ネットワークと無線ネットワークの両ネットワークに対して,データ伝送を制御するトラヒックエンジニアリング技術を確立することができた.その一方で,光ネットワークに対して,確立したトラヒックエンジニア技術では十分な効果を得ることができておらず,一部の改良が必要であることが判明した.しかしながら,この改良はすでに検討中であり,多くの時間は不要であると考えている.それゆえ,平成25年度の研究達成度は,おおむね順調に進展していると評価する.
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は,まず,前年度に達成することができなかった光ネットワークに対するトラヒックエンジニアリング技術を確立する.それから,すでに確立している光ネットワークと無線ネットワークのトポロジ設計法を基に,光無線統合ネットワークのトポロジ設計アルゴリズムを確立する.本アルゴリズムでは,2つの設計技術を組み合わせる際に,光の波長と無線のチャネルの割り当てを考慮することで,統合ネットワークのトポロジを設計する.本アルゴリズムの確立後は,モンテカルロシミュレーションを用いて,提案方式の性能評価を行い,様々な状況下で確立したアルゴリズムの有効性を示す.その後,トポロジの最適設計を行った光無線統合ネットワークに対して,すでに確立している光ネットワークと無線ネットワークに対するトラヒックエンジニアリング技術を適用する.このとき,両トラヒックエンジニアリング技術をそのまま使用するのではなく,両ネットワークの伝送速度や使用可能帯域を考慮することで,統合ネットワークトラヒックエンジニアリング技術の確立を目指す.特に,本技術によって,ネットワークのロバスト性が悪化しない経路を検出するように経路選択を行う.その際,無線ネットワークではダイクストラアルゴリズムを用い,光ネットワークでは巡回セールスマン問題の近似解を導出する. また,平成26年度に関しては,これらの成果を基にして,無線ネットワークの最適トポロジ設計に関する実機実験を行いたいと考えている.さらに,光ネットワーク部分に関しても,仮想ネットワーク環境を用いて実装実験ができないか検討中である.実装実験の実現が難しい場合には,ネットワークシミュレータを活用して現実の環境に近い状況で性能評価を実施する.
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の予定とは異なり,ネットワークシミュレーション用のノートパソコンを購入せずに既存のパソコンを使用した.さらには,学生アルバイトに頼らずプログラム作成と文献調査を行ったため,物品や謝金に使用する金額が減少することとなった.その一方で,研究調査のために予定より多くの旅費を使用し,研究成果の発表による旅費も支出することになったため,旅費の使用額が当初の予定よりも増加することとなった.これらの増減を踏まえた結果,当初予定額よりも使用額が少なくなってしまった.その一方で,研究目標を全て達成できたわけではないため,次年度使用額は,未達成部分の成果が達成した際の成果発表用旅費として,次年度に使用したいと考えている. 次年度は,当初の予定どおりに物品費を使用する.また,国内研究会発表と国際会議発表の参加費・出張費,さらには,研究動向の調査と連携研究者と打ち合わせを行うための出張旅費に使用する.また,研究に関する知識を得るための図書を購入する.学生アルバイトには,プログラム作成補助と文献調査に関する謝金の支払いを予定している.現時点では,当初の計画通りに研究費を使用する予定である.
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