研究課題
基盤研究(C)
本研究は、無線通信の信頼性とリアルタイム性を飛躍的に高める為に、時空間符号(Space Time Code)化とネットワーク符号化を用いることを目的としている。平成24年度は、研究計画・方法で述べた、周波数選択性MIMO通信路におけるシングルキャリヤー伝送を用いた時空間符号化方式に関して、MIMO SC-FDE(Single Carrier - Frequency Domain Equalization)方式に関して研究を行った。すなわち、MIMO Interleaved SC-FDMA(MIMO Interleaved Single Carrier-Frequency Division Multiple Access)方式の受信機構成につき、まず周波数領域等化(FDE: Frequency Domain Equalization)による仮判定後に、ISI(Inter-Symbol Interference)キャンセラーでISIを除去し、次にMLDを用いて送信アンテナストリーム間の空間多重分離を行って復調信号を得て、さらにこれを改善された仮判定値として用いISIキャンセルとMLD(Maximum Likelihood Detection)を繰り返す受信機構成を提案した。さらにMLDの演算量を削減するため、MLDの代わりに最尤解の得られるSD(Sphere Decoding)を適用し、計算機シミュレーションによりBER特性と演算量削減効果を検証した。また、提案受信機構成をLDPC符号化した場合に対し、信頼度の高いLDPC復号結果を再びISIキャンセラーにフィードバックし、これを繰り返すことで,更なるBER特性の改善を図った。当初の研究計画に対し、計画に沿って、十分な成果が得られたと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
上述したMIMO Interleaved SC-FDMA方式の受信機構成の研究実績に加え、平成24年度の研究計画・方法で述べた、MIMO MFSK(M-ary Frequency Shift Keying)方式に関しても研究を順調に進めることが出来たからである。以下この研究実績につき述べる。FSK信号は、定包絡線性を有し電力効率の高い非線形増幅器の使用に有利である。近年、無線通信の高速化・高信頼度化に向けMIMO方式は必須となりつつあるが、FSK変調方式への適用は従来余り検討されて来なかった。これはMIMO方式の信号分離や等化などの信号処理が基本的に線形行列演算に基づいて行われるためと考えられる。研究代表者は、非線形変調であるFSK信号の復調前における線形等化につき検討し、サイクリックプレフィクス(Cyclic Prefix; CP)を用いる周波数領域等化(FDE)がFSK信号にも適用できることを示した。本研究では、このFDEによる復調結果を仮判定値とし、所望検出時刻のシンボル以外の他の送信時刻のシンボルからの符号間干渉成分を、仮判定値を用いて受信ISIレプリカを作成し、受信信号から減算するISIキャンセラー及びその後の空間多重の分離を最尤判定法(Maximum Likelihood Detection; MLD)によって行う受信機構成を考えた。そして信頼度の上がった判定結果を再びISIキャンセル用のレプリカ作成に使用してMLDを行う、繰り返し信号分離検出方式を提案した。FSKの検波器としてはキャリアー再生の不要なエネルギー検波を用いた。この結果、MMSE nullingのみによるFDE受信機に比べ、ISIキャンセラーとMLDを用いた繰り返し処理受信機では、大幅なBER改善効果が得られることが計算機シミュレーションを通して確認出来た。
ネットワーク符号化等を用いた複数経路(リレー中継)によるダイバーシチ効果を研究する。具体的な性能(機能、精度等)としては、現在の無線LANで使用されているMIMO-OFDM方式だけで、リレー中継やネットワーク符号化等を用いない場合の伝送品質(受信信頼度)に比べ、格段の信頼度の向上を目指す。すなわち、送受信アンテナ数2×2のMIMO-OFDM-BPSK変調で、MLD(Maximum Likelihood Detection)信号分離により、10-5のビット誤り率を得るには、受信S/Nとして約25(dB)必要であるが、これを15(dB)以上改善し、受信S/Nとして10(dB)以下で10-5のビット誤り率が得られるようにする。これは送信側で誤り訂正符号化を用いない無符号化の場合の目標値であるが、さらに高性能LDPC(Low Density Parity Check)誤り訂正符号を用いることにより、7.5(dB)程度の改善が見込まれ、最終的に受信S/Nとして2.5(dB)以下で10-5のビット誤り率を得ることを目標とする。また、制御データ信号を伝送する単位はビットの集合からなるパケットであり、パケット誤り率(PER, Packet Error Rate)を下げることが重要である。1パケットはLDPC符号の1符号語から成るが、LDPC符号の繰り返し復号の終了はパリティ検査行列演算により行え、パリティ検査行列演算を満足すればビット誤り無しで復号できる。このように誤りを含まないパケットを伝送することが、今後の研究推進の目標であるが、数値目標として、受信S/Nが2.5(dB)以下で10-3のパケット誤り率を得ることを目標とする。病院や工場などの医療機器やロボットの制御における超高信頼無線制御信号伝送方式用の送受信システムとしても使用できると考えられる。
平成24年度に、最新鋭の高速ワークステーション「数値解析用ワークステーション リアルコンピューティング RC Viento 1600XS, 2CPU/6Core」(×1)を本研究助成で購入することができました。平成25年度は、最新バージョンソフトウェアーであるMATLAB&SimulinkシステムVer. R2013a(×1)を購入し、m言語やSimulink上での計算機シミュレーションを実施する必要があります。また、研究遂行上、パーソナルコンピュータ数台、数式処理ソフトウェア-Mathematica 9、PC計算機用ソフトウェアー(OS,グラフィック処理、データベース処理)、関連資料、マニュアル、技術資料購入費、PC用スロット基板などが必要です。また研究協力者である大学院学生計8名による研究成果の発表の為の国内旅費(学会参加発表20回・人/年)は特に必要で、また外国旅費(国際会議参加発表1~2回・人/年)も必要です。研究代表者は平成10年度~19年度まで10年間連続で高速無線データ伝送方式に関し科学研究費の補助を受け、また平成21年~23年度も科学研究費基盤研究(C)の補助を受けました。すなわち一貫して高信頼度な無線通信方式の研究実績を積上げて来ています。本研究計画で目標とする、再送を用いなく伝送遅延の無い超高信頼な無線によるリアルタイム制御信号伝送は、ロボット制御、病院のモニターシステム、工場内機械制御、衝突防止用ITS通信など、各種応用分野で益々必要になると考えられ、今までの一貫した研究を積み上げさらに発展させる為に、平成25年は以上に述べました様な研究費の支出が必要です。
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Int'l J. of Communications, Network and System Sciences
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978-1-4673-2393-2/12/$31.00
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