研究課題/領域番号 |
24560457
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
林 和則 京都大学, 情報学研究科, 准教授 (50346102)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 無線パケット衝突検出 / 無線LAN / 自己干渉波 / アンテナアレー |
研究概要 |
全二重無線中継局のための回り込み波キャンセラを応用した,無線パケット衝突検出法についての基本的な検討を行った.無線パケット衝突検出においては,検出するべき衝突パケットの受信電力に比べて極めて大きな受信電力をもつ自信の送信信号,すなわち自己干渉波の抑圧がその実現のための鍵となる.本年度の検討では,CSMA/CA方式を用いた現実的な無線LAN環境において想定されるパケット衝突のシナリオを洗い出し,想定すべき自己干渉波と衝突パケットの受信電力比を検討した.実システムで想定される量子化レベルを用いたときの,基本的なシステム構成による自己干渉波キャンセラを用いた提案方式のパケット衝突検出能力を評価し,どの程度の特性改善が必要であるかを計算機実験によって明らかにした.提案方式の特性を改善するために,次の2つの方式を考案した:1)受信部にアンテナアレーを導入することで量子化雑音によって劣化した受信SNRを改善する方法,2)自己干渉波キャンセラ出力(あるいはアレー出力合成後の信号)と無線LANのプリアンブルの相関を取ることで衝突信号検出能力を向上する方法.計算機シミュレーションによって特性を評価することで,上記2つの手法がいずれも衝突検出能力の向上に有効であること,2つを併用することでキャリアセンスレベル以下の受信電力をもつ衝突パケットであっても検出が可能であること(ただし,RF部でのアイソレーションを併用することが前提)を明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究により,本研究における大きな2つの目標である「無線パケット衝突検出の実現」と「同一周波数全二重双方向通信の実現」のうち,前者については大きな進展があったと言える.特に,ディジタル信号処理部において達成可能な自己干渉波の抑圧特性とRF部で期待される(文献による)抑圧特性の総和が,現実的な無線パケット衝突検出に必要な特性を上回っていることが確認できたことは大きな意義がある.
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今後の研究の推進方策 |
無線パケットのリアルタイム衝突検出の実証実験とパケット衝突検出を前提とした多元接続方式の検討を行なう. 1. 無線パケットのリアルタイム衝突検出の基礎的検討(実験):トイモデルに準じた実験系を構成し,解析によって得られた提案方式を実験により評価する.通信方式は現在広く用いられている無線LANのIEEE802.11a, 11g, 11n等を想定し,回り込み波と衝突パケットの電力比がどの程度まで検出可能であるか評価する.理論解析や計算機シミュレーション結果との相違が見られる場合には,必要に応じて提案方式やトイモデルそのものについても再検討を行なう. 2. 無線パケットのリアルタイム衝突検出の実証実験(実験):提案無線パケット衝突検出法を現実的な無線通信環境を想定した実機による実験で評価する.特に,送信側での衝突検出結果と受信側での実際の衝突にどの程度違いがあるか評価し,可能であればその統計モデルを作成する.また,実験結果と計算機シミュレーションによる特性に大きな違いがある場合は,方式の再検討も行なう. 3. パケット衝突検出を前提とした多元接続方式の検討(理論及び計算機実験):無線パケットのリアルタイム衝突検出を前提にした無線アクセスプロトコルの設計を行なう.まず,パケット衝突検出を利用した従来の多元接続方式についてサーベイし,各方式における提案パケット衝突検出法の適用可能性について検討する.さらに,計算機シミュレーション及び実験によって得られた提案衝突検出法の性能及び無線通信環境について十分考慮して,新たな多元接続方式の設計を行なう.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は主に実機を用いた実証実験を行なうため,プロトコルを任意に変更可能なソフトウェア無線の送受信機を導入し,合わせて必要な測定器,制御用計算機を購入する.また,国内の大学において,本研究と異なるアプローチで無線パケット衝突検出を検討しているグループがいるため,そこの研究者との意見交換やセミナーを行なうための旅費を計上する.さらに,本年度の初期検討によりいくつかの学術的な成果も得られていることから,国際会議での発表も行なう予定である.
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