研究課題/領域番号 |
24560457
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
林 和則 京都大学, 情報学研究科, 准教授 (50346102)
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キーワード | 無線パケット衝突検出 / 無線LAN / 自己干渉波 / アンテナアレー / 同一周波数全二重双方向通信 |
研究概要 |
初年度に検討した無線パケット衝突検出法の実無線伝搬環境での測定実験に基づくデータを用いた現実的な特性評価を行った.無線パケット衝突検出においては,検出するべき衝突パケットの受信電力に比べて極めて大きな受信電力をもつ自信の送信信号,すなわち自己干渉波の抑圧がその実現のための鍵となるが,本年度の検討では,無線LANの周波数及び信号フォーマットを用いた実伝搬環境における,電波伝搬実験を行い,そこで得られた受信信号に対して,提案方式を適用することで,実システムでの無線パケット衝突検出の実現可能生について検討を行なった. その結果,「時間領域のキャンセラで自己干渉波を抑圧するだけの手法では,かなりアンテナ素子間隔を離さないと,衝突が検出できないこと」,「アンテナアレーを用いる提案法と無線LANのプリアンブルとの相関を用いる方法は実環境においても効果的であり,とくにプリアンブルとの相関はその効果が非常に大きいこと」,「送受信で直交する偏波(水平と垂直)アンテナを用いることで,かなりのアイソレーションが稼げること」,「直交偏波アンテナとそのアンテナアレーおよびプリアンブルとの相関をすべて併用することで,送信アンテナとパケット衝突検出用の受信アンテナの間隔が搬送波の半波長程度であっても,パケット衝突検出が可能であること」などが明らかとなった.以上のことから,既に普及がすすんでいるMIMO型の無線LANのアクセスポイントにおいて,これらのアンテナのうちの複数を衝突検出用に使用することで,ハードウェアの複雑度を高めることなく,無線パケット衝突検出が実現可能であると考えられる
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究により,本研究における大きな2つの目標である「無線パケット衝突検出の実現」と「同一周波数全二重双方向通信の実現」のうち,前者についてはほぼ実現の見通しがたったと言える.特に,送受信のアンテナ素子間隔を通常のアンテナアレーの最小素子間隔である搬送波の半波長とした場合でも,現実的なA/D変換の量子化ビット数での信号処理を用いて,実伝搬環境において衝突検出が可能であることを実証できたことは大きな意義がある.
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今後の研究の推進方策 |
無線パケット衝突検出の実験結果をふまえたアルゴリズムの再検討とパケット衝突検出を前提とした多元接続方式の検討,および同一周波数全二重双方向通信の検討を行なう. 1. 無線パケットの衝突検出の実証実験を踏まえたアルゴリズム再検討:昨年度の検討では,無線パケット衝突検出の実証実験に成功したが,その検出能力においては,計算機シミュレーションで予想していたものと実験結果との間に違いが見られた.このため,本年度はその理由について検討しそれに基づいて更なる特性の改善をはかるべく,アルゴリズムの再検討を行なう.特に,アンテナアレー合成においては,各アンテナ間で信号対干渉電力比が大きく異なることを前提にしていなかったため,これを考慮することでさらなる特性の改善が期待される. 2. パケット衝突検出を前提とした多元接続方式の検討:無線パケットのリアルタイム衝突検出を前提にした無線アクセスプロトコルの設計を行なう.まず,パケット衝突検出を利用した従来の多元接続方式についてサーベイし,各方式における提案パケット衝突検出法の適用可能性について検討する.さらに,計算機シミュレーション及び実験によって得られた提案衝突検出法の性能及び無線通信環境について十分考慮して,新たな多元接続方式の設計を行なう. 3. 同一周波数全二重双方向通信の検討:無線パケット衝突検出の手法を応用することで同一周波数全二重双方向通信の検討を行なう.自己干渉波抑圧後の信号に対して復調処理を行なうことで,どの程度の自己干渉波まで対応可能か計算機シミュレーションによって検討する.また,誤り訂正符号等も導入したときの達成可能レートについても検討する.最後に,実伝搬環境での受信信号を用いた特性の検証も行なう.
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