研究課題/領域番号 |
24560464
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
桑原 伸夫 九州工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50336088)
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キーワード | 情報通信工学 / 電子デバイス・機器 / 環境電磁工学 / 電力線通信 / 漏洩電磁界 |
研究概要 |
本研究は,3導体電力線がこの線路上を伝搬する通信信号に与える影響を把握すると同時に,伝搬信号の漏洩電磁界に対する3導体電力線の抑制効果の可能性を明らかにして,電力線通信の適用領域の拡大を図ることを目的として平成24年度より開始した.平成25年度は,2年目として,1)グラウンド面上にある電力線の簡易モデル化法の検討,2)漏洩電磁界強度推定法の検討,3)電子機器の回路網モデル化法の検討を主に実施した. 昨年度,有限要素法を使用することによりグラウンド面上にある電力線のモデル化が可能なことを示したが,電力線の種類や地上高が変化するたびに数値解析を行うのは不便であるので,簡単な計算で電力線の回路網モデルを決定する方法を検討した.そこで,3導体電力線の代表的な例として,導体径,絶縁材料,導体配置が異なる5種類の電力線について,回路網モデルに使用するパラメータの地上高・周波数依存性を表す近似式を求め評価を行った.その結果,これらは導体配置の影響を強く受け,導体径と絶縁材料の影響は小さいことがわかった.また,銅細線で構成された導体の回路網モデル解析には導体外径の使用が可能なことがわかった.これらの結果より,導体の配置に着目すれば,近似式を使用して回路網パラメータの導出が可能なことがわかった. さらに,求めた回路網を使用して漏洩磁界強度を求めて測定結果と比較を行った.その結果,15MHz以下であれば漏洩磁界強度を5dB以内で推定可能なことがわかった. 次に,電子機器の回路網モデルを決定するため,Sパラメータの測定結果より回路網モデルを決定する方法を検討した.その結果,3ポートSパラメータよりアドミッタンス行列を求めることにより,回路網が線形であることを仮定すれば,回路網の導出が可能なことがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の目標は,1)グラウンド面上にある電力線の簡易モデル化法の検討,2)漏洩電磁界強度推定法の検討,3)電子機器の回路網モデル化法の検討であったが,これらについては,概ね達成できたと判断している. まず,グラウンド面上にある電力線の簡易モデル化法の検討では,昨年度検討した3導体電力線について,回路網モデルに使用するパラメータのうち,解析に有限要素法を必要とする単位長当たりのコンダクタンスとキャパシタンスをグラウンド面からの高さを変化させて求め,その傾向線を関数で近似した.また,周波数依存性を有する比誘電率とtanδについても,この周波数依存性を関数で近似した.その結果,これらの依存性を1次もしくは2次の関数で近似することにより,各パラメータの測定値に対して誤差が20%以内にすることが可能なことがわかった.さらに,この方法を5種類のケーブルに適用して依存性を評価した.その結果,これらは導体配置の影響を強く受け,導体径と絶縁材料の影響は小さいことがわかった.これらの結果より,導体配置で分類をすれば,グラウンド面上に配置された電力線の回路網の近似モデルは簡易な計算で決定できることがわかった. 漏洩電磁界強度推定法の検討については,上記検討で求めた回路網を使用してコモンモード電流を求め,この電流値より磁界強度を求める方法を検討した.求めた磁界強度は15MHz以下の周波数では測定値との誤差が5dB以内となり,この解析方法の有用性を示すことができた.また,これらの成果の一部については,電子情報通信学会の環境電磁工学研究会で発表した. 電子機器の回路網モデル化法の検討の検討では3ポートのSパラメータ測定値よりアドミッタンス行列を求めることにより,回路網が線形と仮定できれば回路網を決定することが可能なことを示した.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,平成24年度,25年度に得られた成果を基にして,平成26年度は,1)解析法の高精度化の検討,2)電子機器のモデル化法の検討,3)3導体電力線を使用した通信の適用領域の検討を行う.特に,解析法の高精度化については,昨年度誤差が大きかった15MHz以上の周波数の漏洩磁界強度について原因を明らかにして行く.同時に,分岐を含む配電系のモデルについても,回路網モデルを使用した解析法の検討を行う. また,電子機器のモデル化については,昨年度検討した手法を用いて種々の電子機器の回路網モデル化を実施する.また,ケーブルの場合と同様に,地上高を変化させた場合の簡易推定式の実現可能性について検討する.さらに,電子機器が動作している状態としていない状態における回路網モデルの変化について評価を行う. 適用領域の評価に関しては,回路網モデルを使用して信号の伝搬特性の解析方法を検討し,信号伝送に使用していない3番目の導体の存在が電力線通信に与える影響について,解析と測定の両面から検討する. 平成27年度は,これまでの研究成果をふまえて,1)3導体電力線の適用領域の明確化,2)対策ツールの開発を主に行う.そして, 3導体電力線が通信に与える影響を把握すると同時に,この電力線の漏洩電磁界抑制効果を明らかにする. なお,研究期間を通じて得られた研究成果は学会等を通じて随時公開する.また,対策ツールについてはホームページ等を通じて提供をし,電力線通信の適用領域の拡大を目指す.
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