研究課題/領域番号 |
24560476
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 工学院大学 |
研究代表者 |
合志 清一 工学院大学, 情報工学部, 教授 (40500335)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 超解像 / 再構成超解像 / 映像 / ナイキスト周波数 / リアルタイム処理 |
研究概要 |
平成24年度の目標に設定した2項目を達成し、平成25年度の目標であった4Kディスプレイでの超解像化実験に着手している。 平成24年度の目標は2点であった。1項目目は高周波成分を取り出すハイパスフィルタの構成である。さまざまなシミュレーションを繰り返した結果、映像では直流をカットし、低域から高域までを選別する1本のフィルタで十分であるとの知見を得た。この知見に基づき、2項目の目標である高調波成分を発生させる非線形特性の設計と映像により異なる最適ハイパスフィルタ及び最適非線形特性の選択手法の設計を行った。最終的には合計55本のフィルタを設計したが、最適なフィルタは7タップの比較的簡単なフィルタとなった。7タップを越えるとエッジ部分にモスキート状のノイズが付着する事が判明した。これらの成果を用いて数多くの映像で超解像化実験を実施した。 映像によって多少の画質差はあるものの全ての映像で、これまでに達成していない高解像度化を実現した。定量的に研究成果を検証するために、超解像化を行った映像にFFTを施し周波数スペクトラムの広がりを求めた。検証の結果全ての映像で元となる映像のナイキスト周波数を越える高解像度成分が生成されたことを確認した。 超解像技術として広く研究され、民生機器に搭載されている再構成超解像と本提案での研究成果の比較検証も行った。主観評価実験の結果、本提案である非線形信号処理を用いた超解像技術は再構成超解像技術を凌駕することが判明した。 研究成果は国内外の学会で発表を行う共に、関して平成24年11月にプレスを行い、研究成果の周知を行った。プレスの効果もあり、10社を越える企業から本研究に関する問い合わせを受けている。平成24年度内で本研究に関する国内研究発表は招待講演1件を含め合計9件、国際学会では2件の発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成25年度4月現在、平成25年度の目標としているFPGAによるリアルタイム装置の試作は最終段階に達している。5月中にはハイビジョン画像を4Kに変換する実験装置が完成する。この段階で平成25年度の目標のひとつが完了したことになる。平成24年12月には平成24年度目標が完了したため、計画全体を前倒しで実行可能な状況となった。 平成1月からFPGA実装のための本格的な検討を開始し、ビット演算長、DSP使用による非線形回路の簡略テーブル化、メモリバンド幅対策を実施し、FPGA1個で全ての信号処理が完結する構成に変更した。実験装置として汎用性を持たせるために、実験装置にはCPUを搭載し、閾値等を変化させて高解像度化状況が確認可能な構成とした。閾値等の変更はPCを接続して行う。この構成により、簡単なパラメータ変更はPCで、フィルタ特性や非線形特性の変更はFPGAの再コンパイルで対応することとした。再コンパイルは一昼夜を要する。画質調整作業の多くはパラメータ変更であり、パラメータ変更は再コンパイルを必要としない。このため、本年度計画している4Kテレビによる評価実験は効率的に実施可能と考えている。FPGAはCPUを搭載する品種を選択したので、実験装置基盤ははがきに近いサイズまで小型化することに成功した。 リアルタイムハードウエア実験装置の開発に平行して、4Kテレビ評価用コンテンツの収集作業も進めている。近年、非圧縮ハイビジョン映像の著作権は学会発表を含めて厳しく制限されている。後日、研究発表で映像の著作権が問題とならないために、研究に必要な映像は申請者が撮影して収集している。 上記進捗状況から、3カ年計画中、1年1ヶ月が経過した時点での、進捗状況は全体計画の50%には到達していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
近日中に実験装置が完成するので、リアルタイムの4Kテレビ超解像実験が可能となる。これまでのシミュレーションでフィルタ特性、非線形特性等の最適化は完了しているが、映像は非線形かつ非定常な信号源であるため、可能な限り多くの映像で4K超解像映像の確認を行う予定である。シミュレーションと異なり、ハードウエアによる実験なので効率的かつ短期間で実験を完了する予定である。現時点ではこの実験完了を7月初旬に置いている。その後、本装置を用いた主観評価実験を開始する。主観評価実験には国際評価基準である、BT500に基づいて実施する。ただし、BT500は単一モニタによる画質評価手法である。本研究では、市販の超解像機能搭載4Kテレビとの比較も行う。この場合は2台のモニタによる主観評価を行う事になる。2台のモニタによる主観評価実験はBT500には定められていないので、基本的条件はBT500を用い目的に合致した主観評価法を用いる予定である。 実験は多くの被験者に数多くの映像を評価させるので3ヶ月程度を見込んでいる。10月初旬には主観評価実験を完了させ、その後、評価データを解析する。 データには統計解析を行い、研究成果を定量的に評価する。これまでの簡易主観評価結果から、提案技術は市販の再構成超解像機能付ハイビジョンテレビよりも高画質であることは確認している。本年度は両者に統計的に有意差があることを実証する。全ての映像で提案技術が好成績を残すことは確実であるが、映像によっては圧倒的な画質差とならない場合も想定される。画圧倒的な画質差とならない場合、原因を究明し対策を施す。これらの作業を本年度中に完成させる。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度中に可能な限り、多くの映像を用いて非線形超解像アルゴリズムを完成させる。当初計画では本格的な主観評価実験は平成26年度に予定していたが、平成25年度内に実行可能である。最終年度となる平成26年度はハイビジョン放送コンテンツを中心に圧縮映像を用いた実験を行う。放送コンテンツを用いた実験でも既存製品に対して優位性を証明すれば、幅広い産業分野への応用の可能性を示すこととなる。 研究成果を世界に発信するために、国際学会を中心に発表を行うと共に超解像分野での最新研究を注視し本研究に活用する。超解像に関する研究分野は2004年~2008年に非常に盛り上がったが、リアルタイムハードウエアの開発に至らなかった。その後、研究開発に行き詰まりが見え、現在に至っている。本研究は従来の再構成超解像やデータベースを用いた超解像と全く異なる非線形信号処理を用いた手法であり、既存の超解像研究者との議論が必要である。 これらの目的を達成するために、来年度経費は主観評価実験と学会発表経費が主たる用途となる。映像の高解像度化は永遠の研究テーマであり今後も継続した研究が必要である。本研究は予定を前倒しして進んでいる。この時間的な余裕を生かして、来年度は提案技術の医療応用や監視カメラへの応用も含めた検討を行う予定である。これらの目的を達成するために経費の範囲で新たなコンテンツの購入も検討する。
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