研究課題/領域番号 |
24560477
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
澁谷 智治 上智大学, 理工学部, 准教授 (20262280)
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キーワード | LDPC符号 / 線形連立方程式 / 復号法 / 符号化法 |
研究概要 |
本年度は,(1)LDPC符号化システムの性能評価,(2)LDPC符号の高速符号化アルゴリズムの開発,を行った。 (1)LDPC符号化システムの性能評価 LDPC符号の設計手法は近年目覚ましい進展を見せ,従来にはない様々な手法により高性能LDPC符号を開発できるようになった。しかしながら,新たな手法により設計されたLDPC符号に対する性能解析手法は十分に整備されておらず,高性能符号を効率的に生成するための妨げとなっている。そこで,新たな手法により構成されたLDPC符号の性能を数値的に評価し,性能解析手法の開発への一助となる知見を得た。これらの成果は雑誌論文リストの1番目の論文としてまとめられた。 (2)LDPC符号の高速符号化アルゴリズムの開発 検査行列をブロック三角化することによって符号化の計算量を低減する手法については,本研究の申請段階で基本的なアイディアを得ていた。本年度は,(a)ブロック三角化を行うための高速アルゴリズムの開発,(b)ブロック三角行列の対角ブロックが三角行列とどの程度異なるかを示すパラメータの精密な評価,を行い,高速符号化アルゴリズムを完成させた。また,提案したアルゴリズムの計算量の評価を行い,最悪計算量の意味で従来手法よりも劣ることはないことを理論的に示した。さらに,数値実験により,平均的な計算量の意味では,従来手法を大幅に上回ることを確認した。これらの成果は雑誌論文リストの2番目の論文としてまとめられた。 以上の研究成果は,LDPC符号化システムの実現と運用における問題を克服するとともに,システムの高度化に大きく貢献するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
LDPC符号化システムは次世代の誤り制御方式として有望視されているが,実用的な符号長における解析的な性能評価法は未だ確立されていない。また,符号長の二乗に比例する大きな符号化計算量を要するという,LDPC符号化システムの運用上無視できない欠点もある。本研究の目的は,LDPC符号化システムに関するこれらの問題点を克服することである。 LDPC符号の符号化計算量の低減については,本年度までの研究により,ほぼ満足のいく成果が得られたものと考えられる。その具体的な理由として,(a)符号長の線形オーダで実行できる符号化アルゴリズムの開発に成功したこと,また,(b)提案した符号化アルゴリズムが,従来の線形オーダの符号化アルゴリズムよりもはるかに計算量の低いアルゴリズムであることが理論的・数値的に示されたこと,の2点を挙げることができる。これらの成果は,LDPC符号の運用における上記の問題がほぼ完全に解決されたことを強く示唆している。 一方,LDPC符号の性能評価法に関しては,未だ完全な解決に至っていない。今年度の研究により,特に,近年開発された設計手法に基づくLDPC符号について,それらの性能を左右するパラメータの候補を数値実験により明らかにした。しかしながら,当初予定していた,符号化の高速化に大きな役割を果たした「線形連立方程式の数理」をLDPCの性能評価に適用することまでには至っていない。 以上の状況から,研究期間の2年目を終了した段階では,研究は概ね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定では,LDPC符号の符号化の高速化に大きな役割を果たした「線形連立方程式の数理」をLDPC符号の性能評価に適用することを予定していた。しかしながら,現在までの達成度の項で述べたようにこれについては十分な検討が進んでおらず,LDPC符号の性能評価法に関しては未だ完全な解決に至っていない。そこで,研究の最終年度ではこの問題に取り組むことが最大の課題である。 今年度の研究において,LDPC符号の性能を左右するパラメータの候補を数値実験により明らかにしている。また,本研究の計画段階では,線形連立方程式の効率的解法のうち,DM分解法,および,ヤコビ法に代表される反復解法における数理的な考察が,LDPC符号の性能解析に応用出来るのではないかと予想していた。そこで,最終年度は,これらの観点からの検討をさらに推し進め,LDPC符号の性能評価法の確立を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初予定していた研究集会への参加を取り止めたため。 特に大きな金額でないため,消耗品等の購入に使用する。
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